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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『いくつかの方式の会話』『皆既食 ―Total Eclipse』
舞台が始まった早い段階で身重の妻を殴り倒し「あーあ、そういうやつな、おまえは」と観客に周知させているのに、生瀬さんの演じるヴェルレーヌにはどうしようもない魅力がある。それはこの作品が、ヴェルレーヌを含めた全ての人物を追憶の対象として描き、その“美しい魂”の都合の良さを生瀬さんが身体に落とし込んだからだろう。
このふたりのコンビネーション、彼らの地獄の道行きに花を添える(その交感がどんなに哀れなものであっても、花は花なのだ)登場人物たち。その人物たちが生きる場の美術、照明、音響。中越司さんの美術は、場内に入った途端にため息が出た。大きな窓とカーテン、姿なき風。目に見えるものが、目に見えないものの存在を認識させる。それは大人数投入されている(なかには出演者もいたそう)転換のための黒子も同様で、目に見えない(筈の)彼らの働きにより、登場人物たちは場所や時間を行き来することが出来る。パンフレットのリハーサルショットでは、井上尊晶さんの姿が目に留まる。
ナイフは蜷川さんにとって重要なイメージでもある。最近、『演出術』を再読している。演出手法、表現方法に変化はあれど、常に演出家の意識の底には千のナイフと千の目を持つ観客がいる。観客は、このナイフを拍手と言うキスに替えることが出来る。演出家とともに歩んできたスタッフ、カンパニーへ贈るキスだ。このカンパニーでこの作品を観られたことに、感謝の拍手を贈りたい。
11月15日(土)
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