ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』
『アーツシアター通信』のインタヴューによると、今回の公演には「蜷川幸雄」が出演するプランもあったそうだ。しかし実際に蜷川さんが出てくることはなかった。開演直前、客席最後列の後ろに作られている席(ゴールドのときもネクストのときも、蜷川さんはよくここに座っている)に、スタッフに手を握られた蜷川さんがゆっくりと上がってくるのが見えた。『2013年・蒼白の少年少女たちによる「オイディプス王」』開演前にも同じ光景を見たのだが、そのときは退院したばかりだから…と思っていた。やはりショックだ。出演がなくなったのは単なるプラン変更によるものか、蜷川さんの体調によるものかは判らない。当日配布のパンフレットに記載されている出演者のプロフィールには、入院していた、杖から手を離せなくなった、と言うコメントが並んでいる。しかし、そのあとには「退院して復帰出来てよかった」「また杖要らずで歩けるようになりたい」と言葉が続く。舞台上に立っているゴールドのメンバーは、一日一日を大切に生き、そして成長することを諦めない。年齢的にもゴールドの一員になれる、と笑い乍ら言っていた蜷川さんも、自由が利かなくなっていく身体というものを日々実感し、それを「次」に活かそうと企んでいるように思える。その探究心、演劇への執念。その執念が“弱者の怒り”に結実するのだ。
と書くとなんだか悲壮感溢れるもののようだが、実際は老人の図々しさ、したたかさを笑いに転じて見せる場面も多い。前述の「老婆たちによる裁判所占拠」はもうその画そのものが「なんじゃこりゃ!?」と言う面白さだし、「六法野郎」たちを喝破する「ばばあ道」は見習いたい(笑)。ばばあたちが裁判長たちの服をもたもた剥いでしまう場面も相当おかしい。しかも脱がせてみれば、彼らは赤いパンツや紫色の褌を履いているのだ。ゴールドには葛西弘さんと言う脱ぎ要員がいるのだが(そう言ってしまいたくなる程よく脱ぐ担当・笑)やっぱり今回も脱がされていた。葛西さんは、どんな状況になっても、どんな窮地に立たされても、愚直に被告たちを守ろうとする弁護人をユーモアたっぷりに演じていた。そして今回まじまじ見て思いましたが、葛西さんってすごく脚の筋肉しっかりついてるんですよね。見せるだけのことはある(笑)。最年長の重本惠津子さんはたいへん声のかわいらしい方なのですが、今回演じた老婆たちのリーダーとも言える虎婆の迫力と言ったらなかった。派手に動きまわることなく、よく通るソプラノで若者たちに死刑を宣告していく。
ヒステリックに嘲笑するでもなく、必要以上に悲観するでもなく。淡々と、日々の変化=老いを見つめ、表現する。ひとが暮らす場所に必ずある、笑いと涙と怒りを。
青年ふたりはネクストの松田くんと小久保くん。個性を薄くする狙いだろうか、どちらも長髪、ブルージーンズ、白いシャツ(松田くんはワイシャツ、小久保くんはTシャツ)のいでたちで、双子か兄弟のよう(これもあってボストンマラソンの犯人を連想したんだろうな)。そんな彼らは救済を申し立てるが、「子宮にのみこんで絞め殺してやる」と言う老婆たちに痛めつけられる。終始ハイテンションで絶叫し、静かな老人たちの言動と対照をなす。いんやしかし小久保くん、エルワといいオイディプスといいテンション高い役続くなあ。あの温和なホレイシオを演じたひとと同一人物とは思えない。
そしてクライマックス、老人たちは若者に“変身”する。瞬時にゴールドの面々がネクストの役者に入れ替わるのだ。どうやったか全く判らなかった程のトリッキーな入れ替わり。機銃掃射を受けあっと言う間に全員が倒れる、そして沈黙。そこへどこに隠れていたのか(『おおかみと七匹の子やぎ』思い出した…笑)弁護人が現れる。「私だけが、変身出来ないなんて………」。弾かれたように客席から笑いが起こり、すぐにまた沈黙が降りる。弁護人はよたよたと、とぼとぼと何処へともなく消えていく。笑い、怒り、嘆き。さまざまな感情に支配され、暗闇に取り残される。
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05月19日(日)
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