ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■BÉJART BALLET LAUSANNE JAPAN TOUR 2013
『シンコペ』はジルの振付。音楽用語でおなじみのシンコペーション。医学用語では卒倒、気絶、心臓停止。心臓が停止したとき、脳では何が起こっている?シティ・パーカッションによるひとなつこい音楽、愛嬌のあるリズムに乗って踊るチャーミングなダンサーたち。ギロチンで斬られた首は地面に落ちる感触を自覚出来るのだろうか?と言う言葉を思い出しました。それは夢か、幻覚か。そのまま死に連れていかれるか、生に引き戻されるか。ソファに座ってTVにかじりつき?な青年がソファに呑み込まれる場面、走査線を思わせるスクリーンの隙間から無数の手が出て来る場面、何故か『ビデオドローム』や『トワイライトゾーン』の口がない女の子迄芋ヅル式に連想してしまいヒー!となった……怖い!全然関係ないこの3つ!なんでこうなる!

それはともかく別日に『ボレロ』を踊るエリザベット・ロスがシャネルのスーツを思わせる50年代的なファッションに身を包み、ソファの青年についたり離れたり構ってあげたり寄り添ってあげたりなダンスがとてもかわいかったな。貫禄ある美しいダンスなのにかわいいの。照明付きの帽子もかわいかった(この帽子込みでシャネルみたーいて思った)。ぽっ、っと光が灯り、ぽっ、っと消える。命のスイッチみたい。身長順に綺麗に並んだ群舞は、システマティックな構図を感じさせ乍ら愛嬌もある。LEDのような照明は真夜中の病院のよう。なのに何故か暖かみを感じる。あの色、なんて言えばいいんだろう、ブルーグレーみたいな……夜の病院は怖いけど、必ず誰かが起きて働いている。そこからくる安心感みたいなものかな。今後レパートリーになってほしいー。背景を知りたい、また観たいと思わせられる作品でした。ジルがアフタートークで解説してくれるかなと思っていたんだけど「『シンコペ』については明日話します」だって、ガーン。

アフタートークでの「『ボレロ』の解釈についてドンは“祈り”、ギエムは“人生そのもの、愛”と答えていたがあなたは?」との問いに、まずベジャールの振付に忠実に踊ることを意識する、そしてリズムの青年たちとの関係性を重視する、と前置きしたうえで、“死の尊重”と答えていたジュリアン。確かに彼の踊りは死の色濃いものでした。指摘されていたけど終盤「ハッ!」と言う声をあげた。リズムを、あるいは自分を鼓舞するため?「いやあ、とにかく必死なので、今際の際の叫び声のようなものです(笑)意識してなかった」と茶目っ気たっぷりに答えていたけど、「生まれた瞬間からひとは死へと向かっていく。生きることは死に近付いていくこと」とも言っていた。リズムに呑み込まれるメロディは、命を踊りに差し出している。踊る度に死に、そして生き返る。腕、脚が長く、掌が大きい男性ダンサーが『ボレロ』を踊る姿は大鷲のよう。そのヴィジュアルからも火の鳥を連想しました。

そしてそうそう、リズムとの関係性!今回チームって感じがすごくしたー。メロディをゲストに迎えるのとはまた違う、チームのボレロ。カーテンコールで舞台上のダンサーたちがあげた雄叫び、円卓から降りるジュリアンを笑顔で迎えるリズムの面々。いいチームだなーって。BBLには数年ボレロを踊る男性ダンサーが不在だったそうで、士気も高まっていたのだと思います。またひとつ、心に刻まれる『ボレロ』を観ることが出来ました。

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ジルとジュリアンのコメントは記憶で起こしたのでそのままではありません。アフタートークはYouTubeに全編アップされているので、正確なニュアンスはこちらで是非。司会進行は佐藤友紀さん、通訳は岡見さえさん。

03月04日(月)
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