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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『エッグ』
出演者は皆強い磁力があり、アンサンブルのなかにも印象に残る人物が多かったです。以前小劇場で観た役者さんがちらほらいてあっと思ったこともちょっと嬉しかったり。
舞台装置の見立てが言葉に繋がっていました。選抜された選手が使用するロッカーは、“丸太”を収納し運搬するロッカーになり、捨て置かれるひとびとの終の住処…ハートロッカーになる。たまたま最近『ハート・ロッカー』を観直したりしていたので、選手控え室のロッカーがハートロッカーになった瞬間の、言いようのない気持ちは胸の底に澱となって残った。多くのロッカーの移動が場面転換や人物の出入りのマントとして使われ、その段取りの多様さに演者が若干手間取っていた印象もあり、その目まぐるしさにこちらの関心や興味が寄ってしまったシーンもあった。これらがスムーズに行くとより話に集中出来たかも。
個人的には、あの部隊に関しての文献は一時期興味があって読み漁っていたことがあった。きっかけは森村誠一の著書で、これについても捏造だ、事実ではない、これはプロパガンダ小説だと言った論争があった。真偽はさておき、“丸太”と言う呼称はこの本で知った。学校の教科書にそういった記述はなかったと記憶している。自分の記憶も改竄されているのかも知れないが、これも「知った気になっている過去」だ。これひとつとっても、“丸太”と呼ばれた人間がいたことを「知った気にな」るのは必要ではないかと思う。
リニューアルオープンした芸劇で上演される初めての作品で、改修中の劇場を訪れる女子高生たちと言う幕開けを提示し、観客を現実から劇世界へと連れて行く。そして最後の最後、野田さんが野田秀樹として舞台に立つ。クスッと笑える台詞とともに、観客を現実に引き戻して幕切れ。このフックをどう捉えるか、今後考えていくことになると思います。あまりにも重い歴史を少しでもポップにするためか、「知った気になっている過去」を「知った気になっている」だけだと我に返らせるためのスイッチか。
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その他。
・リニューアルした芸劇中劇場=プレイハウス、音がかなり散らなくなってました。ちゃんと改善されてる!
・野田さんがホームとして使う劇場なら言葉が通る音響にしてくれよー!と思っていたのでよかった……
・改修についての話は、芸劇で配布されている『東京芸術劇場リニューアルオープン特別号外:芸劇、劇的リニューアル。』のインタヴュー記事がとても面白かった。インタヴュアーは徳永京子さん
・舞台に立つひとだからこそ気付く舞台機構について、粘り強く要望を通していったそうです。芸術監督が現場のひとであるってのは大事なことですよね……
・野田さんと言えば坂口安吾のイメージが強いですが、今回寺山修司への思いが描かれていたのが印象的でした。ここ迄具体的に名前を出してくるとは。舞台に現れない重要な登場人物。『エッグ』は寺山修司が書いた『ノック』と語感を重ねたのかも知れません
.椎名林檎の音楽、まるまる二曲SOIL&“PIMP”SESSIONSが参加しています。おおお、ソイルの演奏を録音とは言え芸劇で聴けるとは!その他の曲も椎名さん周辺のミュージシャンが演奏でガッツリ参加。豪華です
09月15日(土)
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