ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『4.48サイコシス』
舞台上の演者と音響、照明を通して、観客はサラ・ケインの頭の中にダイヴする。彼女の意識とともに、限りなく死へ近付く。その縁を覗き込む。死にたい、死にたい、この世界で生きていられない。でも何故?何故自分はここで生きていけないの?死んではいけないとか、生きておかなければいけないとか、そんな教訓めいたことなど浮かばない。ただただ、彼女の心に寄り添って立っているだけ。観ているだけ。何も出来ない、引きずり込まれる、疲弊が澱のように積もっていく。
彼女の叫びと観客の間に存在するのが山川さん。彼は天井から逆さ吊りになって登場し、言い争う患者と医師(の役を演じる人物)を前に叫び呟き、唄う。そして最後には血のプールに沈んでいく。長い長い髪が次第に血に沈み、見えなくなる。
あなたを助けることは出来ない。でも、この世界はあなたを拒絶してはいない。そんなふうに聴こえたのは勝手な解釈かも知れない。しかし彼の声は、生命力に満ちていた。
サさん曰く「あんなに倍音出てるひと、チベットの坊さん以外で初めて観た」。私もチベットの坊さんのホーメイはジンガロの『ルンタ』でしか生では聴いたことがないけれど、確かにあれに匹敵する…いや匹敵とかそういう言葉では括れないな……あれは山川さんだけの声だから。文字通り身体が震えるような声だった。共鳴して震える感じ。ブレス、ロングトーンと続けるところがあったんだけど、アタックの声をひずませるのね。それが皮膚にビリッときた。うおー今思い返していたら涙出ちゃった(おい)。
生まれ変わりを信じてはいない。しかし、今度サラ・ケインがこの世界に来ることがあったら、4時48分が来て、彼女の意識が晴れ、ここにいられるかも知れないと思うことがあったら。今度はひょっとしたらうまくやっていけるかもしれない。いや、そもそもうまくやっていけるひとなどいない。たまたま今回はこうなってしまった。でも今度は違うかも知れない。そう思わせてもらえるなんて、こんなに苦しい舞台だったのに、まるで心が軽くなるかのような終幕だった。二度と観られない、あのひとたちにはもう会えない。でも、あの時あの場にいることが出来てよかった。
11月22日(日)
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