ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『狭き門より入れ』とか
口にしてしまえば元も子もない。打算や見返りが求められるのは、信用することに理由がつくからだ。あれだけ冷静だった岸が一瞬感情を荒げたのは、理由がつかない信用を信じる人物を前にしてしまったからだろうか。そして葉刈は可能性を諦めてしまっているが、それで納得している訳ではない。門をくぐってしまうと旧世界での記憶は消えてしまうので、「忘れてしまうこと自体が悲しくないですか?」と言っていた魚住は、忘れたことすらも気付かず新世界で穏やかに暮らしている。時枝にはおまけのように宝くじが当たっている。それはきっと天野がコンビニの外に向かって投げた三千万が変換したものだろう。彼らを送り出した天野は、岸と葉刈に向かって、「クソッタレな世界の夕焼けがこんなにも美しいなんてな」というようなことを言い放つ。「人は信用するのが仕事」なのだ。

ほらね、自分が書くとこんなにも青臭くなる…(ガクリ)。そんなデリケートなテーマを、おにぎりやおーいお茶や東スポを使って見せてくれる作品です。頭をなでるとか非常ベル押したい欲求を抑えきれずジャンケンとか、そう言ったちょっとした行動でも。

照明もすごくよかった!原田保さんだったー。あの、劇場に入った途端目に飛び込んで来たコンビニの灯りにはうわっとなったもん。外は真っ暗、中は妙に白く無機質な灯り。ラストの夕焼けも天野の台詞通り美しかった。

舞台の蔵之介さんは久し振り…多分『おはつ』以来……ひえー5年振り。だったもんであのドスが利いた発声に馴染む迄ちょっと時間がかかった(苦笑)しかしやっぱり舞台映えするなあ。腕長いし(申だけに笑)身体もキレる。こういうとこはピスタチオ時代を思い出したり(としより)。イヤ〜なやつの背景と、イヤ〜なやつになった経緯と、そういう自分にイヤ〜けがさしているけど後戻り出来ない意地っ張り。だからこそ最後の選択に到る流れが感動的なものになる。いい役者さんだなあ。クールに見えるけど実は熱いひとだよね。

亀治郎さんを現代劇の舞台で観るのは初めてでした。で、映像で観ている時には気付かなかったのだが、舞台で観ると…し、姿勢がいい(笑)と言うか、やはり立ち姿が違う…ええーと無意識なのか何なのか、見栄を切るような(=キメのところで観客席に正面から向かい合う)仕草が目につき、ちょっとこの座組の中では異質な感じ。でも他の登場人物と相容れない役柄からすると合っていたのかも。人間の無関心に絶望し、一種の復讐心すら感じさせる冷たい狂気は、後方客席にもビンビンに伝わりました。

ニヒルな浅野さん、出てきただけで舞台の空気が変わる手塚さん、この辺りは流石です。どちらもユーモアがあるし。そして有川さんがよかった!あの頭なでたくなる感じ!(笑)自覚のない“選ばれた”人物を絶妙な温度感で見せてくれました。中尾くんも長編舞台が初めてとは信じられない馴染みっぷり。映像の方ではもう有名ですが、舞台でももっと観てみたいと思いました。

と言えば、今回の出演者って全員舞台の身体を感じさせるひとばかりだったので、心地よく観ていられたように思う。浅野さんはもう見ての通りのルパン三世体型だし、手塚さんも相変わらず浮世離れした体型と動き。…あれ、それって舞台と言うよりマンガの身体?(笑)えーと要はカットなしに見ていける=一連の動きに無駄がなく編集いらずな身体と言うことです。

はー、『狂四郎2030』を読んだばっかりだったからいろいろ考えちゃったよ…30日は選挙だし。ある意味いいタイミングで観た。ひとりで世界を変えることは不可能だが、自分の大切なひとには無事でいてほしい、幸せでいてほしいと思う気持ちが繋がっていけば、オノ・ヨーコが言っていたような奇跡が起こるのだろう。行為と感情はシンプルだが、実現はとても難しい。ただ、可能性は信じてみたい。

08月27日(木)
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