ID:4157
西方見聞録
by マルコ
[201113hit]

■多分、記念碑的な日々C人々
 小児病棟というところは、いろいろな人生物語が交錯する場所だ。子ども時代の多くをそこですごす子もいるし、出たり入ったりを繰り返す子もいる。おKさんが入院した県立病院は院内学級施設もあり長い治療に耐える子らも多い。また新生児ICUがあるので、産後間もない産婦さんが母乳を届けに通ってらしゃったりもしていた。

 そんな中、おKさんが同室になったのは6歳児のAちゃんと4歳児のBちゃん。いずれも喘息さんだ。Aちゃんには4歳の弟がいておKさんには6歳の姉、1号がいるわけで、同室の方にそれぞれ家に残してきた今ここにいない兄弟児の姿を重ねてなんとなくしんみりとしたり、喘息のやり過ごし方を語り合ったり、母同士はとても親近感を持って暇な付き添いライフをおしゃべりして過ごした。

 どの家も基本的には母が付き添っていたが、ときどき実家のお母さんやお姑さんや夫さんが現われて、付き添いを交代してメイン付添い人の母親を解放してくれていた。

 特筆すべきはAちゃんママの実家のお母さん(Aちゃんのおばあちゃん)。冬ソナにはまっていて、噂のポラリスのネックレス(韓国語で"もっこり"タレコミBYらいむさん)を胸に現われる上品な老婦人なのだがなんだか物凄くマルコと話があって、別れる時にマルコに1冊の本をくれた。島田洋七著の「佐賀のかばいばあちゃん」というなんだかすごい題名の本で戦後の大混乱の中、孫を育てることになった祖母とその周囲の人々の話だった。

 実母が隣のベットの入院患者の付添い人(マルコ)に本を進呈していることに気付いたAちゃんママはギャっと叫んで申し訳なさそうにマルコを拝んで頭を下げていたが、本は意外にも大変面白かった。孫の養育に関わっている祖母が読んだら確かに泣けるかも、という内容であった。

 またAちゃんのママは眼科医さんでAちゃんママの実家のお父さん(Aちゃんのおじいちゃん)も眼科医さんだそうだ。今は引退したおじいちゃんの医院でAちゃんママは開業医さんを普段はしてるのだけど、Aちゃんの入院中は引退したおじいちゃんが復帰してママに代わって診察をしてくれてるのだそうな。

 このおじいちゃんは若いころ日赤からネパールの無医村に派遣されたことがあったという。栄養失調から来る白内障の手術をネパールの村で「切って切ってきりまくる」という感じで執刀したと話してくれた。

 Aちゃんのママは大学病院の勤務医時代にAちゃんを生み、当然復帰するつもりがAちゃんの喘息のために勤務医を「降りて」今は開業医に甘んじている。でも必ず何らかの形で返り咲きたいという話をきいて、マルコはなんとなく泣けてしまった。どんな立場の人も皆、もがいている。

 実家のヘルプもあって、開業医出来てるんだからいいじゃん、という意見もあるかも知れないけど、やれるはずだった仕事、やるつもりだった仕事を降りてきた者の切なさ、それを取り戻そうと思いながらいつ終わるともわからない「病(やまい)」という夜を子とともに過ごさねばならない焦燥はとても理解できた。Aちゃんのママとはいろいろ話したけど、この焦燥の話が一番ずきんと来た。そりゃあ島田洋七もよかったけどさ。

 皆に先駆けておKさんの退院が決まったころには、窓の外はすっかり夏だった。
06月25日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る