ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(4)外法帖
「実は私たちは、その久兵衛殿に会いに来たのですよ。もちろん仕事で。もしあなたに後ろ暗い事がないのなら・・・会わせてもらえますよね?」
「・・・・・」
 青褪め、ガタガタとふるえ出した女房だけに聞こえるように、あたしは小声で言ってやったわ。(唇の動きで内容を≪龍閃組≫に読まれないよう、念のため口元は手で隠してね)

「・・・岸井屋の又之助もね、炎の鬼に殺されたんですよ。あたしの目の前で」
「ひぃっ!?」

 効果は想像以上だったわ。笹屋の女房は半ば、腰を抜かしてしまったもの。
 浅草と京橋で少し離れていることもあって、商売柄名前はお互いに知ってはいたものの、岸井屋・又之介と笹屋・久兵衛が会ったのは火事の日が初めてだ、と聞いてたわ。でも・・・。
 この様子だと十中八九、彼女「も」又之助のことを知ってるわっ!
 ───何があったのか分からない、って様子の《龍閃組》を尻目に、あたしは普通の声に戻って話を続ける事にした。
「もし久兵衛殿が火傷を負った理由が、失火ではない別の理由があると言うのなら、ことと次第によっては死罪にならなくて済むと思うのですけどね。・・・とにもかくにも、話は奥で伺うといたしますか。会わせてもらいますよ、久兵衛殿に」

 まるで魂をどこかへ持ってかれてしまったような表情の女房は、あたしの言葉にふらり、と立ち上がった。そして、ゆっくりと家の奥へと歩いて行く。
 ついて来て下さい、ってことなんでしょうね、きっと。
 あたしは草鞋を脱いで玄関に上がると、硬い表情の御厨さんへ肩越しに申し渡した。
「御厨さん、悪いですけれどそこで、彼らを見張っていて下さいな。・・・素人に火附盗賊改のお仕事に割り込んでこられては、正直言って迷惑ですからね」

 「迷惑」と口にした時、心の中では「危険」とも言い添える。
 いざって時に将軍さまの手足となって働いてもらわなくちゃならない彼らに、こんな小規模な事件で身辺を煩わせるわけにはいかないわ。万が一にも怪我でもされたらコトだもの。
 ───そんなあたしの気持ちが分かってくれたんでしょうね。御厨さんは珍しく眉をひそめることはなく、指示に従うべく実に気持ちのいい返事をしてくれた。
「分かりました、榊さん」
「な・・・何だとっ! 俺たちをしろ・・・」
「だから少しは落ち着かんか、蓬莱寺」

 素人呼ばわりされ、今にも食って掛かってきそうな蓬莱寺だったけど、背後から醍醐に羽交い締めにされ、御厨さんにも止められてしまう。
 とりあえず女性陣は、追ってくる様子はない。
 それを確かめてから、あたしはゆっくりと、笹屋の女房の後に続いて店の奥へと入って行くのだった・・・。

《続く》

03月21日(木)
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