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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(10) 外法帖
馬子から火種を借り、即席たいまつに明かりを点した御厨さんは、それをいったん馬子に手渡す。
「・・・・・失礼いたします」
そう律義に一言告げてから、御厨さんは素早く馬によじ登った。そうして、首にしがみ付く格好のまま馬子からたいまつを受け取る。
まさにその直後だった。さっきあたしたちが曲がってきた角から、九桐たち《鬼道衆》が走り込んで来たのは。
やっぱり、きっちりと追いついてきたのねっ。あんたたちがそういう態度に出るんなら、こっちにも考えがあるわよっ!
「はいっ!」
掛け声をかけるや否や、あたしは馬を走らせる。
一路目指すは神田。
そして───!
「うわあああああっ!?」
「きゃあっ!」
「くっ・・・」
《鬼道衆》の3人が上げる悲鳴を背中に聞きながら、あたしは手綱を手繰る。
「さ、榊さん、今のは少々荒っぽすぎるんじゃ・・・」
馬の首にしがみつつもたいまつから手を離さずに、そう声をかけてくるのは御厨さん。
「・・・ふん、仮にも鬼と呼ばれた連中が、このくらいで死ぬもんですか。それにあたしは、あいつらに言外に忠告してやったんですよ。これ以上追ってくるんだったら、馬にひき殺されても文句は言えない、ってね!」
───そう。さっきあたしは馬をたきつけて、避けようとしていたあいつら3人の頭上を、ギリギリで飛びまたいでやったのだ。いくら鬼と恐れられる彼らとは言え、さぞや肝が冷えたことだろう。馬って生き物はそりゃあ大きいんだから。
「しかし・・・」
「無駄口は叩かない! 大体馬に揺られてちゃ、舌噛むのがオチですよ、必要がない限り黙ってなさいなっ!」
ひづめの音でかき消されそうになる声を張り上げて、あたしはそう言ってやる。
今はともかく馬を走らせて、御厨さんを神田の油売りのところまで運ぶこと。それが先決なんだから。
それにしても・・・。
いい加減、痛いを通り越して感覚が麻痺してきた下半身のことを忘れるためもあり、あたしは考えを巡らせる。
一体どうしたら、勇之介の暴挙を止めることが出来るのだろう、と。
だって今回の件は、先に起こった又之助、久兵衛の2件とは様相が異なっている。そして孕んでいる危険の度合いも、また段違いなのだ。
むろん、油売り本人やその周囲の人間が巻き込まれる恐れについても、考えないではない。だが彼は、この油売りは明らかに、お門違いの怨みを買っているのである。
『おじさんが最後まで自分について来てくれていたら、あの2人も自分を殺そうとしなかった・・・』
───確かにその、勇之介が桔梗に言った言葉は正論ではあるけど、その実結果論に過ぎないのだ。
考えてもみなさいな。
久兵衛にしろ又之助にしろ、まさか出会った当初から勇之介がおろくの弟だと、ましてやおろくの凶行を止めに来たのだとは、知るはずがない。だから彼ら2人が勇之介を預かったのも、最初は本当に単なる好意からだったかもしれないのだ。そして、彼らから不穏な空気を感じなかったからこそ、油売りも安心して勇之介を預けたのかもしれない。
そして。死んだ人間を悪く言うのは気が咎めるけど、あるいは勇之介がうっかり口を滑らせたことが、2人のせっぱ詰まっていた商人の心に闇を落とした可能性がないとは、誰が言い切れようか。
なのに、勇之介は姉大事と怨みで頭がいっぱいになっていて、冷静さを失っていたとしたら?
久兵衛と又之助に自分を預けた───『たったそれだけ』の理由でもし、そのまま油売りを殺してしまったとしたら?
口惜しさと怨みは晴れることなく、いやむしろ増幅された上に、その矛先はまるで無関係な大勢の人間に向けられるかもしれないのである。
『自分たちが苦しんでいるのに手を差し伸べてくれなかったから』
『姉が小津屋へ行くのを見掛けていながら、止めてくれなかったから』
・・・等等、まるで見当違いの理由をこじつけて!
そうなったら・・・この江戸はおしまいだ。ほとんど全ての人間が勇之介の怨みの対象になってしまい、火の海に沈むことだろう。
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09月17日(火)
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