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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(8) 外法帖
どちらかと言えば、むごい最期を迎えることになったここよりは、おろくと勇之介が住んでいた家の方に立ち寄る可能性の方が、高いじゃないの。
全く、迂闊だったわ。
「ここへは単なる暇つぶしに来た、って言ったじゃないですか。・・・それよりも、おろくたちの以前住んでいたところって、どこになるんでしたっけ? べ、別にこれから寄ろうってわけじゃないですよ。もう遅いですし。明日《龍閃組》に説明する時の材料に、と思いましてね」
あたしの苦し紛れの話題転換をどう思ったかは知らないけど、御厨さんはいつも通りに律義に応えようとした。
「確か・・・神田の・・・」
その直後。
「・・・っ!?」
彼らしくなく、強引な唐突さで会話を打ち切る御厨さん。
そして、こちらから視線をさりげなく外したくせに、何故か体はあたしの近くへすっ、とばかりに擦り寄る。
その左親指で、刀の鍔を静かに持ち上げながら・・・。
「御厨さん?」
「榊さん、私から離れないで下さい」
低く押さえられた彼の声からは、いつになく緊張と殺気が満ち満ちていて。
───それでやっとあたしは、御厨さんが上司であるあたしを庇っていることに気が付いたんだった。
誰から、ですって?
さっきからずっと息を潜めてこちらの様子をうかがってる、物陰の無粋な連中から、よっ!
こういう時、剣術がからっきしって言うのは不利よね。連中の気配にすら、あたしは言われるまで気づかなかったんだもの。
けど、これでも火附盗賊改方与力の端くれですからね。部下ばかりに危ないことをさせるわけにはいかないわ。一刀両断は無理でも、戦闘不能に陥らせる方法はいくらでもあるんだから。
───などと、頭の中で何とか戦闘作戦? を練り終わったところで。
刀に手をかけた御厨さんの厳しい誰何(すいか)の声が発せられた。
「そこに潜んでいるのは分かっている! こそこそしていないで出てきたらどうなんだ!? 我らを火附盗賊改方と知ってのことであろう!」
今の、御厨さんの剣幕に恐れをなした連中が、引き上げてくれたら楽なんだけど・・・。それでも、向こうからの奇襲だけは防ぐことができたわけだから、上出来よね。
一応あたしは、次に敵がとる手段についていくつか予測を立てていたの。
でも。連中の行動と来たらそのどれらでもなくって、あたしを一瞬だけ呆れさせたわ。
「・・・そう喧嘩腰に怒鳴られても困るな。刀を納めてくれないか? 八丁堀。別に俺たちは危害を加えるつもりはないのだから」
どこかで聞いたような声。
「・・・お前たちは・・・」
あいにくあたしからは、御厨さんの体に隠れて相手の顔は見えないけど、どうやら知った顔だったらしい。
御厨さんの肩から、露骨なまでに力が抜けるのが見て取れる。
───一体誰かしら?
あたしは必死で、声だけで記憶を溯ることにした。
「だったらこそこそしていないで、堂々と声をかけてくれたら良かったのだぞ」
「いや、単に様子をうかがっていただけで・・・何やら神妙な話をしている風に思えたから、どことなく声がかけづらくてな。これが与助と一緒なのなら、多分気安く声をかけたんだろうが・・・」
「ほう? ・・・桔梗殿もそう思うのか?」
「そうだねえ。確かにその方が声をかけやすいだろうよ」
今度はやけに艶っぽい女の声。これも・・・どこかで聞いたことがあるような。
「与助がそれを聞けばきっと喜ぶだろうな」
あらあら。御厨さんてば、随分優しい口調になっていますこと。女相手だからって、鼻の下を伸ばしてるんじゃないでしょうねえ。お凛に言いつけちゃおうかしら。
でも。
悠長に「声だけ判断」をしていられたのもここまでだった。
「いい気になるだけなんじゃねえのか? あいつにわざわざ言うことねえぞ。そうでなくても与助の野郎、いつもいつも騒がしいんだからよ」
───今聞こえた3人目の声は、忘れようたって忘れられないにっくきあの男と同じもの!
「風祭・・・お前に騒がしいなどと評されると、与助が気の毒なのではないか?」
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05月19日(日)
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