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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(4)外法帖
 ───実は彼らこそが、与助の言う《龍閃組》。何とも騒々しい公儀隠密なのよ。あたしもつい最近まで、彼らの正体は知らなかったんだけどさ。龍泉寺なんて怪しげなところを根城にしてる、いかがわしい連中としか思ってなかったから。
 しかしまさか、こういうところで鉢合わせしちゃうなんて、ね。

 ・・・って、あら? よく見ると、1人知らない女がいるじゃない。
 蓬莱寺たちと一緒にいるって事は、やっぱり彼女も《龍閃組》なんでしょうけど・・・何だかやけに、存在感薄いわね。
 桜井に負けず劣らず髪が短くて、露出度が高い着物を身に付けてる彼女は、美人なのに何だか冷たい感じの、人間味を感じさせない印象を受けた。
 その目が不意にこちらへと向けられ───ひた、と固定される。
「あなたがたのその髪型・・・町奉行ではなくて、火附盗賊改ですね? こちらにはどのような用向きで来られたのです?」

 ・・・ちょっと待ちなさいよ。
 初めて会ったって言うのに、開口一番、名乗りもしないでいきなり詰問!? どういう態度よ、それ!
 それに、聞いてるのはあたしたちの方なの。何で逆に聞かれなきゃいけないのよ!

「あんたたちに教える義務はないわ。特に、自分から名乗りもしない女に対しては、ね・・・」
 与力の貫禄を見せ付けてやったのに、女は全然ひるむ気配を見せない。・・・どころか、思い切り睨んで来るなんて、ホントいい根性してるわね。
 何者なのかしら、一体。
「ちょ、ちょっと待ってよ涼浬サン、火附盗賊改がそう簡単に、自分たちの仕事の内容を教えられるはず、ないじゃないかあ」
 険悪な雰囲気を察したんでしょうね、慌てて桜井があたしたちの間に割って入って来たわ。
 ・・・ふん、ただ元気が取り柄のおてんば娘かと思ってたけど、結構気遣いできるじゃない。少しだけ、見直してあげる。
 もっとも『涼浬』の方は今一つ納得してなかったみたいだけど、蓬莱寺が目で叱り付けるようにし、桜井には泣き付かれるような格好になったせいか、渋々・・・本当に渋々って感じで、自己紹介をしたわ。

「・・・失礼いたしました。私は王子で骨董品店を営んでおります、涼浬と申します。以後、お見知りおきを」
 言葉だけ聞いてると、それなりに丁寧なんだけど・・・いかんせん、目が全然笑ってないのよ、この女。
 それに、こんな不愛想な女が骨董品店の主ですって? ちゃんとやっていけてるのかしら。まあ、こいつの店が潰れようとあたしの知ったこっちゃないけどさ。
「俺は火附盗賊改方同心、御厨惣州と言う。そしてこちらは俺の上役で与力の、榊茂保衛門さんだ」
 あたしがむっつりと黙っているので、代わりに御厨さんが涼浬とやらに紹介してくれたわ。気が利くわよねえ、ホントいい部下を持ったわv

 ところが、御厨さんの言葉に息を呑んだ人物が、ここにはいた。
 他ならぬ、笹屋の女房よ。まあ、当然って言えば当然よね。町奉行所ならともかくも、あたしたち火附盗賊改が出張ってくるなんて、めったにないことですもの。一体何の用だ、って身構えてるんでしょうよ。
 ・・・そう、思ったんだけどね・・・。

「ひ、火附盗賊改・・・・!?」

 ───その声には、予想以上の脅えの色があった。そう、隠している事を嗅ぎ付けられた、って言う者独特の、恐怖の表情が。
 そう言えばさっき、桜井と美里が彼女に対して、変な事言ってなかったかしら?

『炎の鬼なんて、きっとやっつけてあげるから』
『笹屋さんに火傷を負わせたのが炎の鬼なら、また狙われる危険が・・・』

 ───まさか・・・!?

「笹屋とやら」
 御厨さんが動く前に、あたしは笹屋の女房に詰め寄ってきつく言い放つ。
「・・・よもやあなた、失火があった事実を隠しているのではないでしょうね?」
 その途端。
 彼女の顔からは、血という血が一気に失せてしまったかのように見えた。
「い、いえ、そのような・・・」
「ですけど、さきほど気になる事を聞きましたよ。ウチの人が火傷をした、と」
「そ、それは・・・」

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03月21日(木)
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