ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■忘るる事象について、いくつかの報告(1)
「・・・浦原に聞いて知ってるんだろ? 夜一さん。俺たちが作られたのは、勿論魂の抜けた死体を有効利用する意味もあったけど、それだけじゃない。要は、戦闘経験やデーターを効率よく次の戦闘へ繋げる為だった、ってこと」
「一応は、な」

 そう。
 死神を一から訓練するのは、時間と労力が相応にかかる。そのために真央霊術院があるのだし、一護みたいに短期間で『使える』ようになるのは、異例中の異例なのだ。
 だが、戦闘中に殺されては、その手間も無と化してしまう。だから、死体さえあれば何度でも繰り返して使える尖兵として、コンたち改造魂魄は開発されたのである。

 もっとも、その尖兵計画自体は既にない。今はコンと名づけられたこの、ただ1体の生き残りが存在するのみ。彼らは結局、後々の戦いへ糧になることもなく、一方的に処分されてしまったのだから。

 ・・・それなりに複雑な心境で口を噤む夜一をよそに、コンはあっけらかんとした笑顔で言った。

「端から俺たちには、忘れるって言う選択肢は持ち合わせてねえ、ってだけのことなんだぜ? ・・・ま、今回はそれが、姐さん助ける手助けになったみたいだったから、ある意味良かったけどさ」
「ある意味は、と言ったな。つまり、良くなかった部分もあったと言うことか?」
「・・・聞くかねえ・・・今、それを・・・」

 無表情のはずのぬいぐるみの顔が、明らかに寂しさで歪む。涙腺などないはずの作り物の眼球が、夜一には潤んで見える。

「だってよ。俺だけ馬鹿みたいじゃん。皆が狡くも忘れてられることまで、強制的に覚えさせられてるなんて・・・損してる気分なんだよな、ものすごく。貧乏くじ引いた、ってか、横着できねえ、ってかさ・・・」

 それでも、どこかおどけたように振舞うコンを見るにつけ夜一は、どうして彼に元気がなかったのか判ったような気がした。

 ───疎外感。言葉で表せるとしたら、まさにそれ。

 コンとてさすがに改造魂魄の自分を、死神や人間だと思ったことはないだろう。それでも、半分人間で半分死神の一護と一緒に暮らすうち、同等の存在だと言う意識が芽生えたのだとしたら?

 なのに今回の騒動で、いきなり突きつけられた『事実』。決して自分は、ルキアや一護とは同じにはなりえぬ、と言う───。
 そして彼にはその苛酷な現実すら、忘れることは許されていないのだ。

「断っておくけど、俺は別に、忘れたいって思ってるわけじゃねえぞ?」

 無言でたたずむ夜一をどう思ったのか、コンはいつものようなお調子者の声を装う。

「・・・そうなのか?」
「あったりまえじゃん。今回の騒動でよく分かっただろ? 自分の都合のいいことだけ覚えていてもらおうって考えたって、結局はうまくいかなかったわけだし」
「確かにそうじゃったな」
「ただ、さ」

 ぽてん、と力なくその場にうつぶせてみせるぬいぐるみ。

「どうしようもないって分かってても考えちまう、ってあるじゃん。今の俺、まさにそいつなんだよな。そうでもしないとやってらんねー、っつーかさ。
・・・今日だけでいい。1日だけで良いから・・・ちょっとだけ凹ませておいて欲しいんだ、夜一さん。・・・頼むよ」

 寝て明日になったら、また元気になるから───そう虚勢を張るコンの姿は、同居人の一護はともかく、大好きなルキアにはあまり見せたくないものなのだろう。

 かつて───遠い昔。そんな風にちょっとだけ落ち込んで、でも次の日までには力強く歩み出した男を、夜一は最も身近な存在で知っている。

 彼女はだから、コンの気持ちが分からぬではない。が、時刻が迫っているのも事実で。

「じゃがなコン、落ち込むのはいつでもできるじゃろう。今はとりあえず、穿界門を通って現世へ戻るのが先決ではないのか?」
「自分の足で歩く気、しねーし。断界なんてもっとムリムリだし」
「どうせここに来る時の断界は、一護にしがみついて駆け抜けたのじゃろうが。・・・全く」

 猫特有の細い目を笑みの形に歪ませ、夜一はコンの傍に駆け寄ったかと思うと、その体を銜えて強引に、自分の背中へと放り投げた。


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12月24日(水)
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