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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪後編≫
「お前はさっき『後を尾けさせて、俺たちのアジトを突き止める』と言ったが、それはまずありえない、良い証拠だと言う意味だ」
「どこがだよ?」
「考えてもみろ、俺たちが榊殿と相対した時、我らはしっかりと名乗っているのだぞ? 《鬼道衆》だ、と。もし榊殿が、お前の言うとおり卑怯でズルい人間なら、とっくにその時に尾行されていると思わないのか? 幕府の過失を隠し、全ての罪を我らに押し付けるために。
・・・だが実際はどうだ? 鍛冶屋はあの後ちゃんと赦されたし、正しい処罰は下された。それにあの日我らが一旦引き上げる時、誰か・・・榊殿の手のものらしき人間でも後を尾けて来ていたか? 来ていまい?
それどころか《鬼道衆》と一戦やらかしたこと自体、隠滅させられている感じだ。何しろ一番の腹心といって良い御厨殿が、そのことを知らないのだからな」
「あ・・・・・!」
「誰がそんなことをしたのか? ・・・決まっている。その当時指揮をとっていた、榊殿だ。実際、あの戦いでは死者どころか、ロクに怪我人も出てはいないしな。誤魔化そうとすれば何とでもなる」
九桐ってばよくもまあ、そこまでスラスラと言葉を並べ立てられますこと。・・・結構鋭い推理ではあるけどね。
思いもよらない方向から固定概念をひっくり返され、茫然自失になっている風祭。けど、凝り固まった考えを変えることなど、そうそう認めたくないようで。
「そ、そんな馬鹿なことがあるかよ!? あいつは幕府側の人間なんだぞ? そんなたわ言、俺は信じられねえぞ!」
───別にアンタに信じてもらいたいから、そうしたわけじゃないわよ。
あたしの心のツッコみをよそに、九桐は尚も言葉をつなぐ。・・・半分はオロオロになっている風祭を、からかってる風だけど。
「では風祭、さっき榊殿に出くわした時はどうだった?」
「どうだった、って・・・」
「勇之介の怨霊の件が、我らの仕業と知った時、榊殿は何と言ったか、覚えているか? 風祭」
その質問に答えたのは、だが風祭ではなかった。
「『見損なったわ《鬼道衆》。あんたたちはやっぱり、鬼でしかないのよっ!』・・・だったね」
さきほどからずっと黙っていた、桔梗の声が聞こえる。
「桔梗・・・」
「見損なった、って言葉は、一旦はあたしたちを見直していないと出やしないよ、坊や。多分榊はあたしたちがあの時、鍛冶屋父子を会わせてやりたくて一戦交えた、ってことに気づいてたんだ・・・そうだろう? 九桐」
「ああ。多分、我らが牢屋に兄妹を連れて行った時、こっそり後を尾けていたんだろうな。2人に危害が加えられるのではないか、と危惧して」
「そ・・・そりゃあの時、誰かがコソコソ着いて来てたことは俺も勘付いてたけどよ・・・まさかこいつだっただなんて・・・何でだよ? あの時、俺たちが手下たちを倒したら、一目散に逃げちまったじゃねえかよ・・・」
そ、そういうこともあったわね☆
自分の過去の臆病さを悔いながらも、注意深く伺っていたあたしに、ついに勝利の神様が舞い降りた。
九桐が、桔梗が、渋る風祭を宥めて、戦線離脱を宣言したからだ。
「提案は承知した。今日のところは榊殿、貴殿の顔を立てて引き上げることにする。
・・・だが、そうそう2度目があるとは思うな?」
そう言って。
彼らは裏口からすばやく、音もなく退散して行ったのだった。
・・・彼らが出て行ってからしばらくの間、あたしも、他の皆も声がない。
「ちょ、ちょっと皆! さっき屋根の上走って行ったの、《鬼道衆》じゃなかったの!? 一体何があったのさ!?」
部屋に入れなかったことで、蚊帳の外に置かれた形になる桜井小鈴がそう言いながら飛び込んで来る。
それであたしたちは、《鬼道衆》が本当に引き上げて行ったことを知ったのだけれど。
「マジかよ・・・あいつら、大人しく引き上げて行ったぜ?」
「戦わずして相手を引かせる───理想にして最も難しい戦法の1つですね。見事です」
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12月30日(火)
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