ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(11)外法帖
 そして、思わずゾッ! と立ちすくむあたしに、それこそ焼き殺さんばかりの激しい殺気が叩き付けられる。
 断っておくけど、これでもあたしはそれなりに盗賊との斬り合いにも捕物にも、何度も立ち合ってきたのだ。血飛沫飛び交う現場に居合わせたことだってあるし、ほんの駆け出しの盗賊に睨まれたくらいだったら、そうそう怯んだりはしない。
 だけど・・・。

 鬼火、という名称が、あたしの脳裏で瞬いた。

 この部屋に集まってきた炎は、煮炊きをする火とも夜を照らす行灯の火とも、全く違う。それらの火はこれほどまで毒々しい色を、してはいなかった。もっと優しい、心休まる色をしていた。
 だけど・・・信じられないけど、こうして目の前にしても信じづらいけど、この鬼火たちは人間をただ焼き殺したいがために生まれたのだ───そう、感じずにはいられない。

 早く『彼』を逃がさないと───。

 だが・・・この時あたしは、自分がのっぴきならぬ状況に追い込まれたことを悟ったのである。

 明らかにここの鬼火たちは、誰か特定の人物を殺しに現われたのだ。それは多分、この部屋の主であたしたちが訪ねてきた、行商の油売りの男・彦一。
 幸い彼はまだ、鬼火たちには見つかってはいないらしい。もし焼き殺されでもしていれば、少なくともあたしには分かるから。匂いで。岸井屋の又之助が焼き殺された現場に居合わせた時、みたいに。
 だから一刻も早く油売りを探し出し、逃がさなくてはいけないのだけれど・・・一体どうすれば、それを果たすことが出来ると言うのよ!?

 彼がこの部屋にいないのなら、まだ救いはある。が、今は夜の四つ刻で、在宅している可能性の方が高い。そして、鬼火たちに視界を遮られたせいで、あたしの今いる場所からは室内をくまなく探す、と言うわけにはいかない。
 このところずっと寝込んでいた、という話だから、例えば布団の中にいたところをこの鬼火たちに踏み入られたとしたら。ひょっとしたら今はガタガタ震えながらも布団に潜り込んでいるだけ、かもしれないのだ。
 なのに、こちらが迂闊に動いたせいで、鬼火たちに彼の存在に気づかれでもしたら・・・!

 だが。
 あたしが自分の判断に躊躇していた、まさにその時だった。誰かが、この部屋目指して駆け付けてくる足音が近付いて来たのは。
 入るな、とも、よしなさい、とも叫ぶ暇も与えられなかった。その誰か───御厨さんは部屋へ飛び込んで来るや否や、こう口走ったのだから。

「油売りの彦一! 無事か!」
「御厨さんの馬鹿っっ!!」

 今度はあたしも躊躇なく、御厨さんをひっぱたく。
 いきなりの暴挙に、さすがの御厨さんも苦言を発しそうになったが。

 オォオオオオオオオオォ・・・・・・!
 どこだあ・・・油売りはどこだあ・・・。
 出て来おいぃぃぃぃぃ・・・・!


 ───鬼火たちの怨嗟の声を聞くに及んで、自らの失言を察してくれたみたいだ。口にしそうになった言葉を無理矢理飲み込み、それ以上何も反論しない。

 どこにいるううううううう・・・・・!

 聞いているだけで気がおかしくなりそうな声が、室内に響き渡る。が、肝心の彦一って男は恐ろしさのあまり気を失いでもしたのか、一言として返事をしない。

 だとしたら。まだ転機はあるかもしれないってことじゃない!

 あたしはスラリ、と刀を抜いた。そして、怖がる足と体を宥め透かしながら、炎の向こう側を見据える。

「榊さん!?」
「け、血路を開きますよ、御厨さん」

 彦一がいるであろう場所まで。

 そうは言葉にしなかったが、優秀な人だけにこちらの言いたいことは分かってくれたらしい。無言で刀を抜き、油断なく周囲に目を配らせる御厨さん。

 ───実のところ。
 この時あたしには、勝機なんてこれっぽっちもなかったの。
 だって御厨さんはともかく、あたしは剣術の心得はそれほどありはしない。そして腕力にも自信がなければ、<力>を使えるわけでもない。

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12月18日(水)
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