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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(10) 外法帖
「うわああっ、おさむらいさま、おやめくだせえ! ウチの馬は気性が荒くてっ!」
「榊さん、危ない!」

 馬子と御厨さんの、血相を変えた制止を振り切って。
 あたしはツカツカ、と馬へ歩み寄ったかと思うと、即座に手綱をぐいっ! と引っ張った。
「静かになさいなっ!」と叱り付けて。

 途端。
 飼い主ですら恐れをなす暴れ馬は、おとなしくなった。

「「は・・・・・?」」

 呆気に取られる他の2人を尻目に、あたしは馬の顔をゆっくりと撫で、落ち着かせる。
「いいわね? あたしを神田まで乗せて走るのよ? 間に合えば、美味しい飼い葉をご褒美にあげますから」
 そう言ったところ、どうやらあたしを乗り手として認めたというのだろう。馬は頭を下げて、人間を乗せる体勢になった。
 荷車を引いてる馬だから、さすがに鞍なんかは付けてないけれど・・・この際背に腹は変えられないわ。目的地まで、お尻が痛いのを我慢すれば済むことだし。
 どうしても邪魔になる裾や袖口を、たすきがけにして動きやすい格好になった上で。
「よっ・・・と」
 あたしが華麗な動作で馬にまたがると、やっと我に返った御厨さんが、合点がいった風に話し掛けてくる。
「・・・ひょっとして榊さん、乗馬がお得意なんですか?」
「まあね。こうして乗るのは久しぶりですけれど」

 意地が悪いことに馬って生き物は、人間をなめてかかってるところがある。
 その最たるものは、乗り手の実力を推し量ると言うもの。色々と狼藉を働いて人間を試し、手綱さばきが下手な人間の言うことなど聞こうとしなかったりするのだ。
 つまりこの馬の飼い主は、言っちゃ悪いけど馬に見くびられていることになり、一方のあたしはそこそこの乗り手だと認められたってわけ。
 ・・・まあ、この江戸の町じゃあ町人が馬に乗ることは固く禁じられているから、仕方ないと言われればそれまでなんですけどね。
 あたしはそうして、さっさと馬に乗ってしまった上司の代わりに、馬子へ馬を借りる約束を取り付けている御厨さんへと、声をかけた。

「早くなさい御厨さん。報酬なら、あとであたしがちゃんと払いますから」
「え? 早くって・・・」
「あなたもこの馬に乗って、神田まで行くんですよ。当然でしょう?」
「ちょ・・・! 私は乗馬の心得はないんですよ? それに、事は一刻を争うんですから、2人乗せるより1人で走った方が速いんじゃ・・・」
「あのねえ。この暗い中、どうやって灯りも無しに神田まで走れるって言うんですか?」
「・・・・・私にたいまつを持て、と?」

 正直提灯じゃ、すぐに落っこちて灯りとしての役割を果たさなくなるのが関の山。即座にそう判断しての、御厨さんの返答なんでしょうね。
「あたしが馬を片手じゃ走らせられないのですから、そうするしかないでしょう。緊急事態です。文句は言わせませんよ」
「しかし・・・・・」
 思い切りの良い御厨さんにしては、何とも渋い返答の仕方をする。多分彼のことだから、自分が落馬するとかそういう事よりも、万が一にもたいまつから火の粉が飛んだりすることで発生する、火事を懸念しているんだろうけど。
 ああ、だから今は、そんな風に躊躇してる場合じゃないのよ、気持ちはよく分かるけどさ!

「それに、私たちの今の役目は飛脚じゃあないんですよ」
「え?」
「早く神田へ行けば済む、ってわけではないでしょう? 到着次第油売りの行商を保護するなり、勇之介を説得するなりしなきゃいけない・・・けどあたしの体力では、馬を走らせるだけで精一杯ですから。つまり御厨さん、あなたが一緒に来てくれないと、正直何の解決にもならないのですよ。・・・お願いできますね?」

 浮かんでいたためらいの表情は一瞬で消え。

 スパッ!

 あたしたちが持ってきた提灯が一刀両断され、火も消える。
 それから中の菜種油が入った皿を取り出すと、そばに落ちていた棒切れを拾い、御厨さんが袖口を破った布を巻き付け上から菜種油を染み通らせた。
 簡易たいまつの出来上がりだ。

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09月17日(火)
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