ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(4)外法帖
「多分、その時の恐怖のせいで、油売りを再開できずにいるんじゃないか、というのが近所の者のもっぱらの噂で。現に、あれから家で寝込んでいるらしいですから」
「根性ないわねえ、その油売りも・・・馴染み客取られても、知らないから」
 どうせだからその行商人に、岸井屋たちの火事前の様子とか聞いておきたかったんだけど。小津屋とは関係ない別の事件が、あったかもしれないし。
 でも───寝込んでいるって言うんじゃ、そうもいかないわね。今回は諦めましょ。

***********************

 そうこうするうちに、あたしたちはやっと目的地の京橋・木綿問屋の笹屋へ辿りついたわ。
「?」
 ───だけど到着早々、何だか不穏な空気を感じたのよねえ。だって評判によるとここの店、小津屋に取られそうになるくらいには繁盛してる、って話じゃない。
 なのに今、店先には誰もいないのよ。繁盛してるって言うんなら、御用聞きの1人くらい、配置しておくもんじゃない? おまけに玄関先に無造作に脱がれている草鞋、全然揃えてないと来てる。これじゃ見た目にも悪いわ。
 この店、本当に繁盛しているんでしょうね? 何だか想像していたのとは違って、荒んでいるような気がするんだけど。
「・・・声をかけてみますか?」
「そうね。まさか黙って上がるわけにも行かないでしょう」
 御厨さんがあたしに伺いを立ててから、奥へ向かって声を発しようとしたまさに、その時。

「お帰り下さい! 帰って!!」
 せっぱ詰まった女の声で、御厨さんてば思い切り出鼻をくじかれちゃったわ。あらら〜、可哀想☆
 でも・・・変ね。声はすれども姿は見えず。少なくともここからじゃ、声の主の姿は伺えないわ。つまり家の奥からも、あたしたちは見えないはず。
 なのにどうして向こうは、あたしたちが来た事を知ったのかしら?

「ちょっと待てよ。どうしてそんなに目くじら立てるんだよ?」
「おちつけ蓬莱寺。そう喧嘩腰になる事もないだろう」

 ・・・え?
 今の男たちの声、さっきの女の声と違って聞き覚えがあるわよ。ひょっとして「帰って」って、こいつらに対して言ったってこと?
 でも、何で・・・。

「ねえ、怖がってないでボクたちに任せてよ。炎の鬼なんて、きっとやっつけてあげるからさ」
「そ、そんなもの知りません。ウチの人が火傷をしたのは、単なる事故です! さっさと帰って下さいな!」
「お願いですから聞いて下さい。もし本当に笹屋さんに火傷を負わせたのが炎の鬼なら、また狙われる危険が・・・」
「違うと言ってるでしょう!?」

 随分感情的な声に急き立てられるようにして、玄関先に姿を現したのは5人の男女。
 ああ・・・やっぱり、声に聞き覚えがあると思ったら───運の悪い事に、あたしたちには彼らとは面識があったりするのよね・・・☆
 そして向こうも、よもやあたしたちがいるとは思いもよらなかったらしく、ギョッと目を剥いてたわ。

「げえっ!? 御厨(はっちょうぼり)はともかく、何でホ・・・」
「茂保衛門よ、もほえもんっ! 何度言ったら覚えるのっ!!」
「御厨殿・・・榊殿まで、どうしてここに・・・」
「お前たちこそ、どうしてここへ来ているんだ?」
 あたしの名前を間違って覚えてる、失礼千万な風来坊の剣士は、確か蓬莱寺京梧。そして一応は礼儀を知ってる風の、図体が妙にデカい僧侶の方は、醍醐雄慶・・・だったわよね?
 で、さっきからここの家の女───きっと笹屋の女房ね───に食い下がってる女2人も当然、あたしたちとは顔見知り。
 髪が短くて女らしくない言葉づかいの方が、弓道道場の娘・桜井小鈴。そして髪が長くて、(くやしいけど)清楚な美人の方は確か・・・医者の手伝いをしてるって言う、美里藍・・・よね? 薬の入っていそうな包みを持っているから、きっと治療か何かのためにここを訪れていた、ってところかしら。


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03月21日(木)
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