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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■春の香は碧 【鳴門】 後編
「そんなことあったの? ガイ」
「いや、俺も初耳だ。・・・本当なのか? テンテン」
「え、あれ? ガイ先生は知らなかったっけ? お弁当、ってことは、里内にいた時よね?」
「でも、確かにあの年の春は、ガイ先生は特別任務だからって、僕たちとは別に里外に出られてたことが、何度かありましたから」
「ああ・・・あの頃のことか・・・」
心当たりがあったらしい。ガイは亡き弟子の隠れたエピソードに、少ししんみりとした表情となった。
「まさか覚えていたとはな・・・実は一度だけ、こいつらを連れてあの居酒屋で、夕飯を食ったことがあったんだよ。で、例のごとく頼まれて、焼き味噌を作ってやってたら、あいつだけが興味を持ったんだ」
「ネジ君だけ? リー君たちは?」
「あたしたちは一応は食べては見たけど、あんまり好きにはなれなかったんですよ。苦かったから」
「僕も。効き目が滋養強壮ぐらいだし、無理に食べなくてもいいんだぞ、って先生が言われたので、つい」
ただ、その中でネジだけが、少しずつだけではあるものの、箸をつけていたのだという。あれだけダメ出しの傾向があったのに、今になって思えば確かにあまり文句が出ていなかったな、と、ガイは感慨深げだ。
「だが、特にネジに作り方は教えなかったんだがなあ・・・」
「じっと見てましたよ、あの時、先生の手元を。僕、覚えてます」
「ただし、何を食べさせれるのか心配だ、って雰囲気でしたけどねー」
「ガイ・・・教え子たちに日頃、一体何食べさせてたわけ?」
「失敬な。食えるものしか食わせとらんぞ、俺は」
「ええ、もちろんですとも!」
「主にカレーとか、カレーとか、カレーですけどね」
「・・・・・」
「言うね、テンテンちゃん」
そして、リーたちの話によれば、翌年の春。里内で修行の日、ネジが件の焼き味噌をおにぎりと共に、持参したのだそうだ。そして、どうやらその様子から察するに、ガイに味見をしてもらいたかったらしい。
もう少し自分好みにしたいから、コツを知りたい、と。
だがその直前、肝心のガイは急遽特別任務とやらで、里を離れてしまっていたのだ。それも、長期にわたって。
だから結局、ネジの手作りの焼き味噌が、ガイの口に入ることはなかった。リーたちも、何となく遠慮して、食べようとはしなかった。
『ガイがどんな気持ちで、これを作っていたのか。
ほんの少しだけではあるが、俺にも分かる気がしたよ・・・』
ネジが焼き味噌を持ってきたのは、それっきり。
だが、おにぎりと一緒にじっくりと味わいながら、彼はそう呟いていた───。
「その時僕、どういう意味ですか? って聞いたけど、ネジは教えてくれなかったんですよね。ガイ班にいれば、そのうちに分かるさ、って」
「そうそう。けど、あたしにも未だに分からないんですよ。ガイ先生、どういう意味なんですか?」
「・・・・・・」
首をかしげるリーとテンテン。彼らの様子に、カカシはガイと顔を見合わせ、あいまいに笑うしかない。
きっとネジも、若くして上忍にまで昇りつめた彼も、気づいたのだろう。
天気の良い、春に、フキノトウを、収穫し、調理する───たったそれだけの一連の作業が、どれほどかけがえのない平和の象徴なのか、と言うことに。
だから、こればかりは、言葉で説明しても意味はない。
「だからだ。それを今から、確認しに行くんだ。さあ、出かけるぞ。リー。テンテン」
「いってらっしゃい。お昼は店長が、お弁当用意してくれるってさ」
「ええー、つまり、午前中いっぱいは収穫に時間をかける、って意味ですかあ?」
「修行ですよ、テンテン! そう思えば、苦にはなりませんよ、きっと」
「リーの言う通りだ! 天気もいいし、たまにはこういうのも楽しいぞ!」
門の前で待つ『依頼人・その弐』の元へ、部下を引き連れ赴こうとしたガイだったが、不意に振り向いたかと思うと、ぽつり、カカシに告げた。
依頼人・その壱、の六代目火影に。
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04月17日(金)
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