ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■追憶【鳴門】
 俺たちの時代は、男ばかりのスリーマンセルの班だったから、下手をすれば意地の張り合いのオンパレードで、気が利かないことが多かった気がする。
 当然、任務の作戦もうまくはかどらないことの方が多かったっけ。


・・・・・うん。ゴメン。ちょっと思い出したもんだから。
 関係ないんだけどね。父さんが、あんなことになったのは。父さんは自分の意思で、あんなことをしてくれたわけだし・・・。





 ・・・・・・。
 ああ・・・やっぱり、父さんはすごいな。
 俺は、今の世の中で上忍にこそなったけど、父さんにはきっと適わないよ。

 だって・・・。
 八門遁甲を全門開き切ったら、こんな激痛が体中に走って意識を保つのがやっとだって言うのに・・・父さんはあの時、俺に優しく笑いかけながら逝ったじゃないか・・・。


 俺にはどうやら、無理みたいだよ。皆に笑いかけながら───なんて。
 だから、あの場から逃げて来たんだ。父さんに会いたかったから、ってコトもあるけど。
 この期に及んで、見苦しいな。でも、どうしても弟子たちには、いいところばかり見せたくってね。


 ───独りで逝くのは寂しくないのか? だって?


 う・・・む、正直、寂しくないといったらウソになるだろう。でも、これまでずっと、楽しく騒がしく生きてきたから、もう充分だって気がするよ。バランス取れてちょうどいいんじゃないのか?

 弟子のことも、心配はしてない。
 あいつらは、俺が伝えたいことをきちんと分かってくれた、と確信しているから。
 教えたいことも、全て教え切ったしな。あとは本人の努力次第。それを見届けられないのは、まあ・・・少し寂しいかも知れない。


 ───他に心残りはないのか、だって?


 俺は今まで、結構好き勝手に生きてきたからなあ。イヤ、人の道にはなるべく外れていないつもりだけど。忍としての任務を除いて、の話で。
 やりたいことをやり、言いたいことを言い、そこそこ青春を満喫して、まあ、少しは世の中の不条理に悩んだり怒ったりはしたものの、おおむね満足のいく一生だった、と思うぞ。

 きっとそのうち木ノ葉じゃ、語り草になるんじゃないのか? 俺ほど『忍らしくない忍』は、いなかったに違いないから───あいつとは、正反対だ。


 ───あいつ、って誰だ? だって?


 ・・・父さんも一度、会ってるはずだよ。俺がアカデミーの入学試験に落ちたのに、受かってると思い込んで『仲良くしてやって下さいね』って息子を俺たちに紹介していた、父親がいただろう?
 あの時紹介されてた、口元を布で覆っていた、子供の方だよ。ちょっと生意気そうな。

 あいつはあれから、俺たち同期の中でも群を抜いてどんどんどんどん出世していった。
 けどね、あいつ自身は色々大変な運命に巻き込まれていって、父親を亡くし、親友を亡くし、仲間も、そして師をも亡くして、次第に自分の身を顧みなくなってしまったんだ。


 ───あいつには、生きてる人間の声は・・・俺たちの声は、全く届いていなかった。


 イヤ、あいつの師匠が生きていた時はそうでもなかったけど。
 多分、大切な人たちを亡くしたその反動で、悔いる気持ちがデカ過ぎて、守りたいものを絶対守るんだ、って気持ちばかりが先走ってしまった、その名残だろう。

 同僚が、死に急いでる、って例えてたっけ。本当にそうだと思うよ。
 俺たちは皆、あいつを心配してた。けど、俺たちのそんな気持ちはあいつには通用しなくて、どうしようもなくて、歯がゆかった。


 だから俺は、せいぜい青春を謳歌しまくって、あいつに見せ付けてやったんだ。
 過去にとらわれてるのもいいが、今を楽しんだ方が何倍も有意義だぞ、ってな風に。

 ・・・・・・・あいつの目には、入っていなかったのかもしれないけどな・・・・・・。


 ───え? だったら今も、心残りがありまくりなんじゃないか、だって?


 ・・・確かに、ちょっと前だったらそうだったかもしれないな。


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07月16日(水)
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