ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■忘るる事象について、いくつかの報告(1)
・・・朽木のことを忘れていて気まずいのは分かるが、それはお互い様だろう。向こうの方も我々のことを、覚えていなかったのだからな」

 が、恋次はゆるく頭(かぶり)を振った。

「一護は忘れてませんでしたよ? それともう1人・・・って言うか、あの改造魂魄も」
「黒崎が覚えていても不思議はないだろう。あいつは朽木に、死神の能力を分け与えられたんだ。言わば自分の存在意義を忘れないのと、同じようなもんだ」
「頭じゃ分かってるんですけどね、その理屈」
「大体お前、何で改造魂魄にまで対抗意識燃やしてやがる。あいつらは戦闘用だ。『そういう風』に作られているんだから、忘れなくて当然だろうが」
「けど、あいつらは覚えてて、俺は忘れていた。
・・・それは動かしようのねえ事実っスよ」

 それに、と恋次は、今までとは違った感じの疲れたようなため息を漏らす。

「何か・・・さっきの一護とルキア見てたら、その・・・現世の行楽地で迷子になったガキ探してる夫婦、みたいに見えちまいまして」

 自分で自分にムカつく、と力説する恋次に、周囲は必死で笑うのをこらえ。
 日番谷は重症患者を診察する医師の気分で、痛くなる頭を無言で押さえる。

 自分より十分の一以上年下のガキどもにそんな体たらくでは、これから先が思いやられやしないか・・・?

 彼の憂鬱は結局、彼らの会話を耳にしていて気を利かせたのか、「実は黒崎サンも当初、朽木サンのこと忘れてたみたいっスよ?」と浦原が打ち明けるまで、続いたのだった。



◆改造魂魄・コンの場合◆


 本人にも無論自信があったとは言え、コンを真っ先に見つけ出したのはやはり、猫の夜一である。

 瀞霊廷の片隅で発見した彼は、無残なまでにみすぼらしい風体だった。
 ぬいぐるみの色は褪せ、生地はボロボロ、土と埃にまみれた上に、あちらこちらが千切れている始末。加えていつもの、1人でも騒がしい言動はどこへやら。黙り込んでうずくまっていたため、さすがの夜一も一瞬、見過ごすところで。

 この調子では、一護たちが彼を見つけ出すのは骨だ。もちろんコンとしても、別に隠れていたわけではないだろうが。

「ここにいたのか。探したぞ、コン」

 夜一が後ろから近寄って声をかけたところ、予想に反してコンは、こちらを振り返ろうとしなかった。

「・・・探しに来てくれたんだ、夜一さん」
「何じゃ。迎えが一護か朽木ではないと、不満か?」
「別に。探しに来てくれただけで、有難いから」

 その口調は、すねていると言うよりは本気で投げやりで、夜一の琥珀色の目を瞬かせる。

「一体どうしたのじゃ? お主の探査能力なら、今一護たちが懸命に探していることなどお見通しじゃろうに。どうして答えようとしなかった?」
「・・・・・」
「どうやら、単に置いてけぼりを食らったから、というわけではなさそうじゃな?」
「そっちにもちょっとは凹んだぜ? けど、俺は今回一護にくっついてたばっかで、実際何の役にも立たなかったし。ま、置いてけぼりもしょうがねえかな、と」

 折角の戦闘用改造魂魄なのによ、と、半ばやけくそ気味に呟くのを、夜一は呆れた風に応じた。

「・・・何を言う。皆が忘れていた朽木のことも、一護のことも、お主はちゃんと覚えていたではないか。ただそれだけのことでも孤立無援だった一護にとっては、どれほどの救いになったと思っておる?」
「そんなのお互い様だって。俺も愛する姐さんに忘れられてて、結構ショックだったしよ。カラ元気でいられたのも、一護が俺のこと覚えててくれたからだったんだ」

 ま、今はうっかり忘れてやがるけどさ、とツッコミを入れるのを忘れないコン。

「大体、俺が2人のこと忘れてなかったのは、あいつらみたいに信頼とか絆とか言った理由じゃねえ・・・。
俺たち改造魂魄は元々、『絶対忘れたりしないよう』作られてっからなんだぜ?」

 淡々と告げる口調はコンらしからぬものだったが、決して自虐的ではない。むしろ本当のことを何の誇張もなく伝えている───ただそれだけのもの。


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12月24日(水)
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