ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■いつか来たる結末、されど遠い未来であれ(1)
 照れが手伝って、ついついそっぽを向きつつ、それでも俺は言うべきことは言う。
 すると井上のヤツ、見る見る嬉しそうな笑顔になって、「うんっ!」と返事をしてくれた。

 ・・・やっぱり可愛いな、畜生。

 ちょうどタイミングよく遊子がジュースを持ってきてくれて、そのまま俺と井上はこの部屋でたわいもない話で盛り上がったのだった。



 実は、あの虚圏の出来事をきっかけに、俺は晴れてこの井上と「お付き合い」している。
 もともと、彼女から俺へ寄せられている好意が、ひどく心地のいいものだったことと、もう1つ。彼女の視線やら関心が俺以外の男に向けられる、ってものに、正直言って腹立たしさしか覚えることが出来なかったことで、そういう方面に疎かった俺でも自覚しちまったんだ。
 自分が井上に惚れてる、ってことに。

 皆と一緒に無事、虚圏から戻ってくることが出来てから、俺はなけなしの勇気を振り払って井上に告白したんだが───破面の連中と戦ってた時でも、あんなに切羽詰った気持ちになったことはねえ───、まあ、あれだ。
 俺の言葉を全部聞き終った後の井上ほど、あれほど綺麗で嬉しそうな涙と笑顔を見せてくれたことは、きっとなかったな。自惚れでなく、そう思う。


 結局コンのヤツは、俺が井上を引き止めている間には帰って来なかった。俺としては、思いもかけず長い時間彼女と一緒に過ごすことが出来て、良かったには良かったんだが。

 帰り際。

「あの、よ、井上。今度はその、コンだけじゃなくて、俺に会いに来てくれたら嬉しいんだけど。ってか今度、俺もお前ん家に遊びに行って、良いか?」

 さっきの勘違いだけはきっちり訂正せねば、と上擦る声を懸命に宥めつつ俺が告げた言葉は、それでも何とか井上に通じたみたいだった。
 何故なら彼女は、ちょっと頬の辺りを赤く染めながら、弾けるような笑顔を見せてくれたから。

「・・・! もちろん! 遊びに来てね!」

*********

 井上が帰り。
 遊子の夕食を皆で食べ、自室で寝るまでの時間を寛いでいた俺の耳に、奇妙な声と言うか、物音が飛び込んで来る。

「・・・しょ、うん、しょっと・・・」

 ずりずり、と、何かが壁を登っているような音と、小さな息遣い。泥棒、と言う可能性もあるにはあるが、それにしちゃ重量が軽すぎるだろ、音から察するに。

 ったく、やっと帰ってきやがったのか、コンのヤツ。

 読んでいた雑誌を脇へどければ、目の前の、鍵のかかっていない窓がそーーっと開かれるのが見えて。更にそこから、見覚えのあるぬいぐるみのペタンコな体が現れたのを確かめてから、俺は強引に室内へと引きずり込んだ。

「わわっ、何だ何だ!?」
「何だじゃねえよ。今何時だと思ってやがんだ、コン」
「一護!? いきなり何しやがんだよ、吃驚するじゃねえか」

 いつもの喜怒哀楽の激しさで、俺の同居人・コンは人の親切? を罵りやがる。

「何しやがる、じゃねえよ。夕方まで井上が、お前のこと待ってたんだぜ? いつもは何も言わなくても井上のところへ行きたがるくせに、何で今日はいやがらなかったんだよ」
「へ? 井上さんが、俺に何の用だ?」
「前にお前、生キャラメルが食いてえとか言ってただろうが。今日手に入ったからって、わざわざ届けてくれたんだぞ?」

 自分は貰えなかったやっかみも半分込めて、可愛らしい包み紙に包まれた生キャラメルをコンに押し付ける。ご丁寧にも『コン君へv』て書かれた手作りカードまで添えられてやがんだよな、これ。

「・・・・・?」

 この時、俺は少しだけ違和感を覚えた。
 てっきり「井上さんがこの俺様のために〜vv」とか何とか感激しながら喜ぶだろう、と思っていたのに、何故かコンが一瞬黙り込んだからだ。そして受け取った贈り物をしばらくじっと見つめていたのだが、「そっか・・・覚えてたのか」とポツリ、呟く。

 その口調は、もちろん嬉しさも込められていたものの、妙に静かで、どこか空虚なものをも感じさせるもので。

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12月01日(月)
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