ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61405hit]
■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪後編≫
だってあたしや御厨さんは知っている。感情的になった桔梗が勇之介に<力>を与えなければ、今回の騒動は引き起こらなかったであろうことを。
《龍閃組》は何となく察している。今回の騒動の裏で、《鬼道衆》が暗躍していたことを。
それなのに、諸悪の根源ともいえる《鬼道衆》を、今、ここで逃がすと宣言したようなものなのだ。それもよりにもよって、盗賊捕縛がその任のはずの火附盗賊改方与力が。・・・火傷のせいで脳でもやられた、と思われても仕方のないことだろう。
でも、あたしはまともだ。いたってまともだ。こんなにマジメなことは一生涯なかった、って胸を張れるほど。
「し、仕方ないでしょうが? あたしは言ったでしょ、今回の一連の騒動が、勇之介の復讐劇だったってことを表ざたにするわけにはいかない、って。・・・つまり、《鬼道衆》が勇之介をそそのかしたって事実自体、なかったことにしなきゃいけないのよ。分かる?」
「分かるって・・・」
呆然とうめくように言ったのは、御厨さん。・・・まあ、無理はない話なんだけどね。常識派の彼にとっては、さきほどから想像を絶することの連続でしょうから。
一方、蓬莱寺辺りはむしろ憤然としてあたしに反論してきた。
「榊お前、自分の言ってることがどんなにアブネエことなのか、ちゃんと分かってるのかよ? こいつらがもし、事件の真相を世間に公表でもしたら、一番立場が危うくなるのは他でもねえ、お前なんだぞ!? 火附盗賊改が悪人と手を結んだ、って言われたら、どうするつもりだよ!?」
───そのくらいのこと、あたしが考えないとでも思っているんですか?
あたしはよっぽどそう主張したかったものの、今はそれどころじゃない。緊張と疲労の折り合いがつかなくなってきたらしく、視界がグワングワンと回り始めていたのだから。
でも今は具合が悪いことを悟られるわけにはいかないのだ。弱音を見せたら、それでこの賭けは失敗する。
そして、当の《鬼道衆》にも、あたしの提案を疑問視するやつがいるわけで・・・。
「そんな胡散臭い手に、誰が乗るか馬鹿野郎! 何を企んでいやがる!? 俺たちの弱味でも握ったつもりか? 後で俺たちに何か汚ねえ仕事でもさせる気かよ、そうはさせるか!」
そう言うが早いか、血の気が多い風祭はあたしに殴りかかろうとした。
が、横合いから伸びた手が、それを阻んだ。───予想通り、九桐である。
「止めろ風祭。榊殿にはそんな心積もりなどないはずだ。・・・多分な」
「何でそう言い切れるんだよ? あいつは幕府の犬なんだぞ? 俺たちを一旦退散させておきながら後を尾けさせて、俺たちのアジトを突き止めて襲う、ぐらいのこと、俺でも想像つくんだぜ?」
「後を尾けさせる、か・・・」
ここで九桐は何故か、あたしに向かって何故か複雑な感じの笑みを見せた。
だがそれはすぐに消える。どうやら風祭を説得しようとしているらしい。
「風祭、お前は覚えているか? そこの榊殿と我ら《鬼道衆》が、初めて相対したのことを」
「忘れてなんていねえよ。無実の罪で捕まえられてた鍛冶屋に、会いに来た子供たちを会わせてやるためにドンパチやったんじゃねえか。・・・ったく、このお堅いお役人が、決まりだ何だって会わせてやらなかった挙句の果てに、弁護に割って入ったなが・・・骨董屋の爺さんまで、とっ捕まえようとしやがったんだからな!」
「え・・・」
聞き捨てならないことを耳にしたと、御厨さんがあたしに問い返してくる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 榊さん、《鬼道衆》とコトを交えたことがおありなんですか!? 聞いていませんよ、私は!」
そりゃまあ・・・教えてませんから。
でも厳密に言えば、あたしはうっかり御厨さんの前でバラしてるんですけどね。さきほど、小津屋の焼け跡で、こいつらに相対した時に。『よくもおめおめとあたしの目の前に顔を出せたものですねっ!』って。・・・まだ気づいてないのかしら?
だが御厨さんの言ったことは、九桐にある程度の勢いをつけたようだ。
「だそうだ、風祭」
「だそうだ、って・・・何のことだよ?」
[5]続きを読む
12月30日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る