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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(8) 外法帖
「あったら1人で行こうなんて思うものですか。・・・そうね、単なる暇つぶし、と言ったところですかしらねえ。そもそも今回の一連の事件は、小津屋の大火事から始まったと言っても過言じゃないでしょうから、何となくもう1度見ておきたいと思っただけですよ」
どちらかと言うと暇つぶしと言うよりは、感傷的儀式って感じだけど。
・・・御厨さんも鈍感じゃないから、そんな心情を汲み取ったんでしょうね。少々居心地の悪そうな顔をしていたけど、あたしは見ないフリをした。
そのうち彼の方も開き直ったような表情になる。下手に気を遣ったが最後、「だったら先に役宅へ戻れ」と言われるのを危惧したに違いないわ。ちっ、読まれたわね☆
それからまたしばらく、あたしと御厨さんは黙ったまま夜の道を歩き続けていたのだけれど。
「・・・それにしても・・・今回の事件、何かおかしいと思いませんか?」
向こうの方から話し掛けてきたのは、ちょうどあたしたちが日本橋に差し掛かった頃だった。
*********
「おかしい?」
辺りは暗くなってきた。
雪洞に灯りを点してやりながら、あたしは憮然として聞き返す。
「あたしの推理がですか? ・・・まあ、所詮は状況証拠だけで積み重ねた代物ですからねえ、矛盾や綻びがあってもおかしくはないですけど」
「あ、いえ、榊さんのお考えに対してじゃないんです」
あたしの口調がどうしても不機嫌なものになっちゃったから、御厨さんとしても慌てたんでしょうね。その点だけはきっちりと否定する。
「・・・じゃあ、何がおかしいと言うんです?」
「上手く言えないんですが・・・どこか極端だと思いまして」
時刻が夜だと言う事と、話す内容が火附盗賊改同心としての発言である事で、歩きながらの御厨さんの声は知らず、低くなる。
「いいですか? 勇之介は姉のおろくの凶行を止めようとして、又之助と久兵衛に邪魔をされてしまい、挙げ句姉の付けた火で命を落とした。当然おろくは火あぶりに課せられ、勇之介は又之助たちを憎む怨霊となった・・・」
「別におかしくはないでしょう? 仲の良い姉弟だと言う話でしたから」
「でしたら何故勇之介は、真っ先に又之助たちの謀りごとを訴え出なかったんです?」
───御厨さんの指摘は。
一瞬とは言え、あたしの足を止めるに充分の威力を持っていた。
「私が勇之介なら多分、そうします。姉の罪が軽くなる方法があるのなら、他の何を投げ打ってでもそちらに賭けるでしょう」
まあ確かにこの実直な男だったら、間違いなくそうやって足掻いてみせるわね。
ああ、今にも情景が目に浮かぶようだわ☆
「・・・・・。焼け死んだ直後は単なる弱々しい幽霊だったかもしれませんよ。他人に自分の意志を伝える事が出来ないような、ね。おろくが刑場の露と消えてしまってから、憎しみのあまり怨霊と化したとしても、別におかしくはないと思いますけど」
「だからと言ってすぐに又之助たちを殺す、と考えるのはあまりに極端だと思ったもので。・・・確かに彼らは憎いでしょうが、まずは姉の無念を晴らしてやる方が、先決じゃないでしょうか」
「おろくはとっくに死んでいると言うのに?」
「それでも、です。───榊さんの推理通りなのなら、言わば彼女は嵌められたわけでしょう。なら弟としては、姉の『無実』と又之助たちの策略を、まずは世間に知らしめたいと思うものではないか、そう感じたものですから」
ふん。
全くもって御厨さんらしい考え方よね。
だけど・・・確かに彼の言う通りではあるわ。
火附盗賊改なんて因果な役職柄、どうも考え方が物騒になってしまっていたけど、良く考えれば勇之介は子供な上に、武士でもない。盗賊たちみたいに「やられたらやりかえせ」みたいな行動、起こすと思う方がまず間違ってるのかもしれない。
───そこまで考えて。
あたしはやっと、御厨さんがずっと言いたかった事が分かり、愕然となった。
「で・・・でも現実には、又之助は殺されて久兵衛は廃人と化した、わ。彼らの策略が白日の下にさらされる事、なく・・・」
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05月19日(日)
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