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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・前編 外法帖
「あちらに。何やら趣のある骨董品が見えましたので、もっと近くで見たいと思いましたから」
このおおおおおおっ、よくもいけしゃあしゃあと!
胸の中が怒りで煮えくり返りそうだったけど、ここで動じては向こうの思う壺よね。だからあたしは冷静を装って言ってやる。
「あ、あらそう。あなた、さぞや熱心に鑑賞していたのね。蜘蛛の巣に引っ掛かるほど」
「・・・・・っ!」
「と思ったけど、違ったわあ。単なる糸屑みたい。・・・どうかなさったのぉ、髪の毛に手をやったりして。骨董品を眺めるくらいで髪の毛に蜘蛛の巣がくっ付く覚え、あるわけぇ?」
「・・・・・」
───あたしがお上品に、ことさらわざとらしくイヤミを口にしたことで、どうやらこの場にいた全員が悟ったみたい。
この涼浬って女がこともあろうに屋根裏にでも登って、あたしと笹屋の奥方の話を全部盗み聞きしてた、ってことをね。
全く、油断も隙もあったもんじゃないわ。存在感が薄いとばかり思ってたこの女、どうやら常日頃から、気配を殺す訓練が身に付いてると見たわ。素人臭い《龍閃組》の中では珍しく、本格的な公儀隠密って雰囲気なのは意外だったけど。
「涼浬・・・お前、一体何考えてるんだよ。いくら何でもマズいだろうが、火附盗賊改がいる天井裏に忍び込むっていうのは」
(注意:火附盗賊改がいようがいまいが、人様の家の天井裏にこっそり忍び込むのは立派な犯罪行為です《汗》)
「・・・これも全て、事件解決のため」
「馬鹿野郎。曲者と勘違いされて、天井越しに串刺しにされても文句は言えねえところだぞ。ああ見えても手荒なことで有名なんだからよ、火付盗賊改は」
「私はそのような愚は冒しませぬ」
意外に常識人の蓬莱寺と、静かに暴走するらしい涼浬の口論を背中で聞きながら、あたしはさっきからずっと気になっていたことを聞くことにした。
「・・・時に美里藍、どうしてあなたがここにいるわけなんですか? さっきからの様子から察するに、あなたが久兵衛殿を治療しに来たように思えるんですけど」
「ええ。奥さんから何も聞いていらっしゃらないのですか?」
し、しまった☆ その手があったんだったわ。あまりに衝撃的なことばかり聞かされて、うっかり思い至らなかったけど。
「あたしはあなたの口から直接、聞きたいんですよ」
己の手抜かりを舌打ちしながらも、もっともらしい理屈をこねて尋ね返すあたし。
それなりに説得力があったのか、美里藍は神妙な面持ちで答えてくれたわ。
「そうですね・・・。でも、私がここへ来たのは今日が始めてなんです。所用で来られなくなった先生の代理として」
へ? 初めて来たって言うのに、久兵衛のあの姿を見ても動揺しなかったって言うの? さすが医師の助手だけあって肝が据わっていると言うか、それとも《龍閃組》に選ばれただけある、と言うべきか・・・。
「察するに、あんたに代理を頼んだ先生って言うのが、久兵衛が大火傷を負った時に初めて診察した医師なのね。その先生に何か聞いてないの? 久兵衛の火傷に不審な点があるとか・・・」
「聞いています」
そこで一旦言葉を切り、美里は醍醐の方をチラ、と見やる。彼が「話しても構わん」とばかりに重々しく頷いたのを確かめて、再び話を再開させた。
「その・・・初め先生は久兵衛さんの火傷は、誰かからの呪いのせいかもしれない、そう奥方に聞かされていたそうです。倒れていた久兵衛さんの周囲に、燃えるようなものも燃え残ったものもなかった、と言うことでしたから。───それが2度目に治療に訪れた時は、もうそのことについては何も話したくないと言われた上に、口止め料としていくらか押し付けられたんだそうです。・・・だからその話を先生から聞かされた時、何の事件に巻き込まれたんじゃないかって思って、みんなにも話しました。そしたら・・・」
「どうせ蓬莱寺辺りが首を突っ込もう、とか何とか言い出したってところなんでしょ」
勝手に決め付けて、あたしはそこで話を打ち切った。でもきっと、当たらずとも遠からずだと思うけどね。
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04月13日(土)
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