ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■銀英伝パロ オーディンの空の下(1)
 外で部下達がもめている声がしたかと思うと、いきなりドアから1人の男が飛び込んで来た。
 緑色の目をした、なかなか精悍な顔つきのその男は、だが見覚えのない人物である。着ているのがラフなジャンパーと言う辺り、どうやら軍人でもなさそうだ。
「ありゃ、まだ人がいたのか」
 そして、彼が口にしたのは明らかに帝国語ではなかった。
「・・・悪いけど、あんたを降ろしてる暇はないんだ。そのまま乗っててくれ」
 言うが早いか男はドアを中から閉めると、いきなり車を急発進させてしまったのである。
「閣下ーー!」
 残された部下が悲痛な悲鳴を上げるのを、だが男は他人事のように愉快な気持ちで見送った。


 言わば車ごと埒されたにもかかわらず、軍人である男は動じる事なく相手に尋ねた。
「・・・何なんだお前は。軍人の車をカージャックとは、あまり利口なやり口じゃないぞ」
 それも、仮にも上級大将の車をだ。鋭利目的の誘拐か、単に車を拝借したかっただけなのかは知らないが、このままではただで済むはずもない。
 もっとも、それほどの地位の者があっさり車を奪われたとなると、いい笑い者になるのも否めないが。
「用が済めばすぐに返すって。別にあんた、急ぎの用でもなかったようだし」
 道路を猛スピードで走らせながら、緑色の目をした青年はニヤリと笑う。どうやら男が降りるのに躊躇していた事は、お見通しらしい。
「急ぎ? 一体何があったって言うんだ?」
「・・・知り合いの坊主が、誘拐されちまったんだよ。だから後を追ってる真っ最中さ」
 その言葉に、男はやっと思い出した。先ほど見かけた少年が、誰の息子であったかを。
「じゃあさっきのは、やっぱりワーレンの息子か!?」
 それからの男の行動は迅速だった。手元にあった電話で、どこかへと連絡をとり始める。
「・・・憲兵本部か? 緊急事態だ、お前らのボスを呼べ。今すぐだ。・・・そうだ、ケスラーをだ、とっととしろ!」


 ───緑色の目をした青年の表情に、困惑の色が浮かぶ。
 手っ取り早く子供を取り戻そうと、この車を掻っ攫ったまでは良かったが、乗っていた軍人はどうやらとんでもない人物のようだ。帝国軍の上級大将であるはずのワーレンとケスラー憲兵長官を、こともあろうに呼び捨てにするとは、普通ありえない。よほど肝が据わっているか、それとも彼らと同等の地位を手中にしているかの、どちらかでない限り。
 ものすごく、イヤな予感がする・・・。
 一見、粗野で乱暴な下士官風のこの男の正体を計りかねて───ローエングラム新王朝になってからの新しい軍服の判別法を彼はまだ知らなかったから───青年は結局、直接聞くことにした。
「聞き忘れていたんだが・・・あんた何者なんだ?」
「ビッテンフェルト。フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトだ。お前こそ何者なんだ。何でワーレンの息子を知っている?」


 ビッテンフェルト上級大将・・・!? 良くも悪くも猛将と称えられる、臆病とは無縁の、ローエングラム新王朝の重鎮中の重鎮───!?

「・・・俺はフェザーン商人・イワン・マリネスクと言う者だ・・・」
 冷静を装ってそう応えた青年であったが、心の中は困惑の嵐が吹きあれている。
 何故なら、彼の本名はイワン・マリネスクなどというものではなく。
 書類上では戦死扱いとなっている同盟軍元中佐オリビエ・ポプランこそが、それであったからだ。


≪続≫

11月05日(月)
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