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衛澤のどーでもよさげ。
by 衛澤 創
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■白球を。
「不適当な身体または形態を持つ者」(意味不明)
(丸括弧の中のツッコミは作中で川原女史が付けているものをそのまま引用させて頂いた)
これにより、協約上は女子にも平等にプロ野球選手への道が開かれた―――そしてプロ野球セ・リーグ第七番めの球団が誕生、名を「スイート・メイプルス」、選手のすべてが(監督も)女子の球団である。さてさて、メイプルスが加わったその年のペナントレースは……というのが、大まかな「メイプル戦記」の御話なのだが、川原女史のことなのでそうそう素直なストーリイラインをつけることはない。
メイプルス入団テストを受けに来た中に、「自分は身体は男なんだけど心は女なんだ」という、甲子園出場まで果たした剛速球投手が混じっていて……更に不倫スキャンダルを重ねる強豪球団の花形選手の奥さんが夫に離婚届を叩きつけて入団、などなどスイート・メイプルスは比類なき個性派集団となり、一目置かれるようになり……とにかく、球団発足からペナントレース終了まで、いろんな問題を抱えながらメイプルスはがんばるんだ。そして―――御話の結びに、こう書いてあるんだ。
「よかったね よかったね 女の子でよかったね…」
これ以上書くことはできないが、川原泉女史の骨太少女漫画「メイプル戦記」は文句なしにおすすめだ! 哲学好きなら川原作品すべてがおすすめだ。読むがよろしい。

溜飲が下がるような爽快な物語「メイプル戦記」は野球協約が改正されてから五年後に完結(連載は改正翌年から)、長い時間が経ったが「メイプルス」はまだ御話の中のものだった。時代が二〇世紀から二一世紀に移っても、「メイプル戦記」はまだ夢物語だった。そのうち、ぼくやほかの人たちは「女性プロ野球選手」のことを忘れる。実現可能なものであることすら忘れて、夢を見なくなる。
S・キューブリック監督が映画に描いた遙か未来がついそこまで近付いてきた或る日、ぼくはテレビドラマの中に、自分が幼かった頃には決して見られなかったものを見た。子供が複数人登場するのだが、その中の一人の女の子が、少年野球の一員でこれから練習に行くという様子で、それはドラマの中で特別なものでは決してなく、当たり前の日常の一トコマとして描かれていて、ぼくはやっと、時代は動いたんだと思った。
「野球は好きだけど女の子だからチームには入れないね」……こういうことが当たり前に言われていた頃から三〇年。たった三〇年でこんなに変わるんだね、よかったね女の子たち。そんなことを思った数日後のことだった。

日本女子プロ野球機構発足。報を聞いたぼくの脳裏に「メイプル戦記」の冒頭のフレーズが浮かび上がる。
「よかったね おめでとう」
あの頃の夢物語は現実になりつつあるけれど、あの頃のぼくはもういない。ぼくではない沢山の誰かに、心から。
「よかったね、おめでとう」
ぼくが知らないだけで、国内各所には既にザワさんみたいな女子が沢山存在するんだろうね。
よかったね、よかったね、女の子でよかったね……。

12月22日(火)
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