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へそおもい
by はたさとみ
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■トゥルムをおもいだす
メキシコに行った時に
マヤ文明終焉の地といわれている
トゥルムという場所にいった。
海辺の砂原に
南の国の植物の葉っぱで葺いた屋根の
小さなコテージがあって
そのひとつがわたしたちの部屋だった。
部屋にはベットと
砂でよごれたテーブルがひとつ。
ベッドには蚊帳がついていて
電気はなくて
マッチと蝋燭をわたされる。
コテージのドアは
木の板のたよりないもので
バンバンと何度か勢いをつけないと
ちゃんとしまらない。
ドアと床の隙間から
さらさらの砂が入ってくる。
夜になると
空には星だらけで
部屋にはいると
ほんとうの真っ暗だった。
暗いということは
暗い物質が空間いっぱいに
つまっていることだと思った。
夜はなんとなく
子どもの頃
好きだったテレビとかうたとか
そんな話をしながら
いつのまにか
眠った。
ずっと絶えまなく
波の音がきこえていた。
朝には海辺で
太陽がのぼるのをみた。
砂がほんとうにさらさらで
まっしろで
なめたら
甘くてしゅっと舌にとけそうだった。
裸足になって
海にはいった。
海にはいって
朝陽をながめた。
太陽から
海のうえを通ってこちらまで
金色の道ができていた。
ひとりぼっちのようでもあり
みんなと強くつながっているようでもあり
波の中にたって
海の中のゆらゆらしたものをみていたら
自分がゆらゆらしたものなのか
波なのか
泡のつぶなのか
それをみているものなのか
わけがわからなくなってきて
しまいには
胸が金色でいっぱいになった。
砂がしろくて
さらさらで
足が砂にうまる感触から
わたしが
かたちになって戻ってきた。
トゥルムのおもいで。
きょうも
たくさんの人に会って
いろいろな気持ちになった。
いろいろな気持ちが
わたしの身体の中に
いろいろなしるしを残していて
それで
ちょっとすりきれているので
なめらかになりたくて
トゥルムのあの感触を
胸が欲する。
ときどき
おもいだす
たいせつな感触の
ひとつ。
11月20日(月)
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