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へそおもい
by はたさとみ
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■おっちゃんのたこ焼き
昔ながらの下町の一角。

手作りみたいな小さなブースで
窮屈そうにたこ焼きを焼く
おっちゃんがいる。

細身でしゃんと伸びた背筋
迷いのない鋭い目
きゅっと口を閉じて
愛情深くたこ焼きを焼く。

前を通る時に
いつも
みとれてしまう。

ブースは小さくて
おっちゃんは大きくて
遠くからみたら
おもちゃのようなのだけれど
とても神々しいのだ。

今日は帰りがおそくなって
お腹がすいていて
おっちゃんのたこ焼きが
ぴったりだったので
200円で8個買った。

おっちゃんは
にこりともせず
ひょいひょいと
たこ焼きをひっくり返しながら
お金をうけとって
たこ焼きを包んでくれた。

家に持ち帰るのは
しっくりこないし
駅のベンチで食べるのも
しっくりこなくて
商店街の入り口の壁に
もたれてもぐもぐ食べた。

駅からは
たくさんの仕事帰りの人が
あるいてきて
みんな必死であるいていて
わたしは
あつあつのたこ焼きの
ほにょほにょの中のたこを
みしみしとかんで
ネギの香りとか
紅しょうがの香りがして
ひとりで
透明人間になったみたいだった。

6個目くらいで
“30にもなって立ち食いか
 行儀ワルイってしかられるかもな”
と思った。

だけど
美味しいものを
美味しいタイミングで
美味しいとおもうカタチで食べるのは
わたしにとって至福。
08月29日(月)
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