ID:26167
マシンガン★リーク
by 六実
[826547hit]

■月に吠える
「紫、出てきなさいよ」
 漆黒の影に言葉を投げる。
「いるのはわかっているのよ、出てきなさいよ」
 漆黒の影はぴたりとも動かない。
「紫、紫」
 漆黒の影に、あすかの涙が落ちた。
「あすか」
 たまらなくなって、あすかに駆け寄る。振り返ったあすかは言った。
「いないのは、わかっているの!」
 そういってあすかは崩れ落ちながら、俺の胸にすがるように泣いた。そのあすかのかなしみをどうにもできない自分も、今自分のかなしみもどうにもできない自分も、不甲斐ないと思った。そう思いながらあすかと一緒に泣いていた。
 その時、ふわりとカーテンが動いた。風もないのに、と俺とあすかが目をやると、漆黒の影から、黒い影が這い出てきた。それはまぎれもなく。
「……」
 俺もあすかも、その名前を呼ぶのも躊躇った。きっとこれは幻だ。だって紫はもういないのだから。けれども二人で見る幻があるのだろうか。
 息を止めてしまったかのような俺とあすかの元に、その黒い影は近づいてきた。まぎれもなく、それは紫だった。
「……」
 紫はぺろり、とあすかの頬を舐めた。そして俺の手を舐めた。あたたかい、確かにそれは獣の温度で。
 そして紫はベランダに出た。満月の光の中に、黒く美しい野生が浮かび上がる。そうして紫は月に向かって吠えた。

 しなやかな野生よ、おまへはそらにむかってかえってゆくのか。

 だからあんなにも切なくて懐かしかったのか。お前にとって還るべき場所だから、あんなにも満月に向かって吠えるのが切なくて懐かしかったのか。そして今、お前は、還ってゆくのか……。
 最後の己の遠吠えの余韻を、目を閉じてうっとりと確かめるような紫。
 還ってゆく。今度こそ本当にかえってゆく。
 そう思った瞬間、紫は音もなく、再び部屋に戻ってきた。そしてゆっくりと、消えていった。
「紫!」
 俺もあすかも叫んだのは同時だった。と同時にすぐにわかったのだ。
 紫、お前は確かにそこにいたのだね。ずっとずっとそこにいたのだね。
 いなくなってなどいなかった、紫はずっとそこにいたのだ。いたから、いるのだ。
 お前はそれを今、俺達に教えてくれた。
 そしてお前は、ずっとずっといるのだね。


 そしてその次の満月の夜。もうこの月ほどにまんまるくなったあすかのお腹に耳を当て、命の鼓動を聞こうとする。
「やっぱり名前は紫かな」
「そんな事をしたら、紫怒るわよ。勝手に俺の名前を使うな、て」
 そこで俺達は振り返った。開け放ったカーテン、ベランダから満月の光が部屋一杯に満ちて、そこに黒い影はないけれど。
 ここにいるのだね。

 もう一度あすかのお腹に耳を当てた。
「わおーん」
 生まれてくる子供に聞かせるように、小さく吠えてみた。



++++++++++
 まずは私の勝手な感傷にすぎないことをひたすらお詫びをしつつ。

 紫君たちの退団発表があった二日前は、まさに中秋の名月だったんです。某紫担さんの「大真くんがいなくなってから覚悟はしていた」という言葉を聞いてよけいに切なく、満月に呼ばれていってしまったのかなぁと(先生このみらゆか者学級会で吊るしていいですか!)。テキスト自体が割とその時出来上がったものです。
 でも私の勝手な感傷はみらゆかドリームをぶつけた事ではなくて、まさに「お前はここにいるのだね」。博多の時のマシンガンに書いた事と同じ、という感傷なのです。本当に私はあの時、大真くんの不在を感じるよりも、大真くんの存在を感じて嬉しかった。いたから、いるんじゃないか。今でも本気で思っています。
 だっていたんだもの。いなかったことにはならないんだもの。
 だからこれは私の為のテキストにすぎないのです。うわあなんかこの人好き勝手いってやがる(笑)。


 補足するまでもないですが、柚希夫人はみなみです。本当は全員出したかったんですが(笑)。
 ここまで読んで前段テキスト読んでない人いないと思うのですが一応出演者テロップ。
 ・新婚さんのとうあす

[5]続きを読む

02月11日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る