ID:22831
『日々の映像』
by 石田ふたみ
[257804hit]

■タイ衝突、死者21人 混乱、惨劇招く
 一方、この国の政治混乱を収拾するには、対立するタクシン元首相派と反タクシン派の双方に、よほどの決意と姿勢転換が不可欠だろう。
 この対立は06年、当時のタクシン首相を失脚させた無血クーデターに端を発している。これで国外に追われたタクシン氏だが、新興財閥のオーナーとして稼いだ豊富な資金と、貧困層への厚遇政策などで獲得した影響力を駆使し、国内への揺さぶりを続けた。反対派は対抗した。
 その結果が、双方のデモ隊が交互に起こした一昨年の国際空港占拠や昨年の東アジアサミット妨害といった事態だ。今回の騒乱もその延長線上にある。タクシン氏一族の国内資産の約6割を没収する最高裁判決を受けて、3月中旬から約1カ月も反政府集会が続いてきた。要求は国会解散と総選挙実施である。
 アピシット首相がこれを受け入れないのは、選挙でタクシン派に勝つ自信がないためだと言われる。この姿勢には民主主義の原則から見て無理がある。タクシン政権時代の不正腐敗や「ばらまき」政治にも批判が強いとはいえ、いつまでも選挙を実施しないわけにはいくまい。そしてタクシン氏も、デモ隊の実力行使で復権への突破口を開こうというのは強引すぎる。
 双方の対立は根深く、解消の展望は開けない。しかし少なくとも、穏健な国民が支持できるような、国益を害さない政治手法を選ぶべきだ。友好国日本の願いでもある。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
社説:バンコク流血―正統性ある政権が必要だ
                    2010年4月13日 朝日新聞
 タイの首都バンコクで、タクシン元首相を支持するデモ隊と治安部隊が衝突し、流血の大惨事となった。
 取材していたロイター通信日本支局のカメラマン村本博之さんをはじめ20人以上が亡くなった。死傷者は900人近くに達する。
 赤シャツ姿のデモ隊は1カ月前から抗議行動を始め、総選挙の実施をアピシット首相に要求してきた。タイ正月を前に、政権が軍を動員して強硬策に踏み切ったことが裏目に出た。
 アピシット政権は武力を頼まない方法で首都の治安回復に全力を挙げてもらいたい。日本政府と協力して村本さんの死因も徹底調査すべきだ。
 それにしても、「ほほ笑みの国」といわれるこの国に刻まれた亀裂の深さに、将来への不安が募る。
 タクシン元首相派と反タクシン派はこの10年近く、対立を繰り返してきた。タクシン氏は2001年に政権を取り、市場経済主義への対応や貧困対策に積極的だった。その支持層は東北部や都市の貧困層が中心だ。
 しかし金権腐敗体質や独裁的な姿勢への批判が広がり、06年の軍事クーデターにつながった。反タクシン派の支持層には官僚や王室周辺のエリート、都市中間層が目立つ。
 経済成長による富が首都に一極集中し、貧富の格差が進む。対立の背景には新興国共通の矛盾も見える。
 政治的な意見対立は、議会を中心に選挙や言論活動などを通じて解決を図るのが近代国家のあるべき姿だろう。
 ところがこの国では近年、総選挙でタクシン派が勝利すると、黄シャツ姿の反タクシン派が空港を占拠。これに対抗する元首相が海外から支持者に抗議行動を呼びかけるなど、議会の外で政治を変えようとしてきた。
 大衆行動やクーデターが歴代政権の土台を揺るがす。それは、タイの立憲体制と統治の正統性が危機にさらされていることにほかならない。
 政治対立を仲裁してきたプミポン国王も高齢となり、そうした役割は期待できまい。08年に発足したアピシット政権は選挙の洗礼を受けていない。回り道なようでも総選挙を早期に実施し、正統性のある政権を樹立することが、混乱収拾への第一歩だろう。
 タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核であり、ASEANは東アジア地域と米国、ロシアとの連携強化に乗り出そうとしている。西の隣国ミャンマー(ビルマ)の民主化を促す上でもこの国の役割は大きい。
 自動車をはじめ製造業が集中し、ASEAN経済の核でもある。多くの日本人と日系企業が活動している。
 鳩山政権がアジア外交を展開するうえで、タイの協力は欠かせない。この危機を、遠い出来事として軽く考えるべきではない。

04月14日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る