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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■ 家族間の殺人事件
途中で理性を取り戻せたなら、凶行に走る前に思いとどまれなかったのかと思うと、やるせなさが残る。
■行き詰まりが理由か…得意先失い収入減、移転検討も介護で断念
江成容疑者は約20年前、三男さんが病気で寝たきり状態になったのを機に、それまで勤めていた印刷関連会社を退職し、祖父の代から続いてきた製本会社の経営を受け継いだ。数年前には自宅を2世帯住宅にリフォームし、父母と同居を始めた。
仕事は近隣の工場から折り込みチラシの作業などを請け負う、典型的な町工場。だが、職人かたぎの江成容疑者の堅実な経営で、6人の従業員や取引先からの信頼も厚かった。
「ミスをしても怒鳴ることなく、ていねいに教えてくれた。真面目が取り柄の人だったのに、こんな事件を起こすなんて信じられない」
現場に駆けつけた男性従業員(43)はそう言って肩を落とした。
江成容疑者を悩ませる災難は、周りから次々と降りかかってきた。
得意先の製本会社が数カ月後に埼玉県へ移転することが決まり、事件2日前の26日には、別の得意先の製本会社の社長から廃業を告げられた。
関係者によると、この2つの得意先を失うと、江成容疑者の工場の収入は半減してしまう、という。
江成容疑者も得意先を追いかけて埼玉県へ移転することを検討したが、三男さんの介護のために断念した。
江成容疑者自身は周囲に悩んでいる様子は見せなかったが、事件の数時間前の3月27日夕には、自宅を訪れた取引相手にこんなふうに不安を訴えていた。
「やっぱり、埼玉に行った方がいいのかなぁ…」
また、自宅の向かい側でマンションの開発計画が進み、自宅前に仕事の荷物や材料の紙束などを置けなくなることや、製本工場の機械が発する騒音苦情も心配し、工場とマンションの居住者ら周辺住民との共存についても、江成容疑者は頭を悩ませていたという。
「仕事のことで悩んでいたようです。ストレスがたまっていました」
江成容疑者の最近の様子について、長女は警視庁にそう話している。
警視庁でも、江成容疑者が経営の先行き不安から、家族を殺害して無理心中を図ったとの見方を強め、殺人と殺人未遂の容疑で、退院した江成容疑者を4日に逮捕した。
江成容疑者は調べに、「仕事に行き詰ってやってしまった」と供述している。
■なぜ殺す? 家族愛が無理心中に…専門家「思い切って悩み打ち明けて」
すべてを失う家族間の殺人事件。警察庁によると、全国的にも年々増加傾向にある。昨年1年間の殺人事件(未遂を含む)の検挙数1052件のうち、家族間の事件は503件で全体の47・8%と半数近くに上った。平成9年の39・1%と比べ、この10年で8・7ポイント高くなっている。
東京都内では2月にも足立区梅田の中古機械販売業の男が母と妻を斧で殺害、二男に手首切断などの重傷を負わせて自殺した事件が起きたばかりだ。
この男も同業者との競争で収入が大幅に減少し、近隣との不動産トラブルも抱えるなど、ストレスが積み重なっていたとみられる。
新潟青陵大大学院の碓井真史教授(犯罪心理学)は語る。
「家族間の無理心中の場合、決して家族仲は悪くない。特に責任感や愛情が強い男性の場合には、自分が自殺し、残された家族に苦労を掛けるなら一緒に死のうと考える傾向がある」
江成容疑者は、地元の信用金庫で働いていた伸子さんに一目惚れして結婚。3人の子供を授かった。中小企業の経営者として仕事に追われる中でも、休日には妻や子供をディズニーランドにたびたび連れて行くなど、家族サービスも忘れなかった。
介護が必要な三男さんについては、家族全員で面倒を見ていた。
「孫は生き甲斐」
今年の正月、三男さんが知人らに出した年賀状には、孫に囲まれて幸せそうに微笑む三男さんと敏子さんの姿が映っていた。
「家族の仲は良かった。夫婦げんかを見たことないし、両親にしかられたこともない。何でこんなことになったのかわからない」
長女は警視庁の調べに困惑気味に語っているという。
仕事が行き詰まったとき、生活に困窮したとき、あなたは何を考えますか? 江成容疑者は決して“例外的な父親”ではない。
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04月08日(火)
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