ID:19318
13匹目のバナナフィッシュ
by サキ
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■堕胎
銀色のカプセルの中は、温かだった。
ただ、少し窮屈だと思った。
「聞こえるかい?」
聞き慣れた声が、カプセルの外側を、こんこんと軽く叩いた。
聞こえるよ。
応える代わりに、同じようにカプセルの内側を叩く。
しばらくの間、そしてそこは静かだった。
ドクン、ドクンと、心臓が脈打つ音だけ、聞こえる。

いつの間にか、眠りに墜ちた。
小さな女の子が、砂の城を作っている。
でも、あまりに海岸に近すぎて、積み上げたと思うと、すぐに波がさらっていってしまう。
終いに少女は癇癪を起こして、砂を派手に撒き散らしてそれを崩してしまった。

「可哀想に」
外で声がした。
「そう?」
「君のせいじゃないけどね」
そう、ぼくのせいじゃない。
「ところで、」
声が尋ねた。
「さっきのは、誰の夢?」
そう、それはぼくの夢じゃあなかった。
「知るもんか」
大袈裟に手を動かすと、紐状のものが絡みついた。
チューブだ。
ぼくの生命維持装置。
「しかしなんだね、こうして外の世界も見られず、自分の意思で動けもしない。あまつさえこの生命は、このチューブによってのみ、支えられている。生きている意味があるのかね?」
こんなのはつまらないと、思った。

こんなの、生きてるうちに入んないんじゃないの?

気紛れだった。
ぼくはチューブに手を苅テけた。



「……先生!」
「ああ。……可哀想に」
止めどなく流れる汗を拭いて、そこに転がった今は只の肉塊となった、かつて生命だったものを見つめた。
「へその緒が首に絡みついて生まれてくるなんて……」
若い医師が溜め息を吐いた。
そして考えた。死産だったと、伝えたとき、そんな気がしていたと、母親が呟いたことを。
「不完全な砂の城が崩れる夢を、みたんです」
その表情のどこかに、安堵があったように、思えてならなかった。
01月08日(木)
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