ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■分け隔て無く vs. アルコホーリク限定
日本のAAメンバーや施設スタッフが、アメリカの施設のスタッフに会うと、よくこんな質問を投げかけます。

「ほかに障害があるみたいで、回復のプログラムに馴染まない人は、どう手助けしたらいいんだ?」

僕も同じような質問をしました。それに対して彼らは一様に困った顔をし、そして親切に、こう言ってくれるのです。

「アルコホリズム以外の問題は、その専門家にまかせたらどうだろう」

この答えに対して、質問した側が、はぐらかされたような気持ちになってしまうは、AAプログラムが誰を対象にしているかの認識にギャップがあるからです。目的の単一性を良く認識している人たちと、アルコールで問題を起こしている人なら誰でも助けたい人たちと。

アルコホリズムとそれ以外の問題を同時に抱える人はいます。僕の福祉の勉強は、そのような重複障害の人を手助けするのに役立ってくれるでしょう。だから、AAメンバーが福祉の勉強をすることに反対しようとは思いません。でも、福祉の思想をAAに持ち込むとおかしなことになっていきます。

日本のAAは40年間、「関係者」と呼ばれる人たちの応援によって発展してきました。最初はその方たちを、英語の professional を訳して「専門家」と呼んでいたのですが、職業的専門性に自信のない人たちから「俺たち援助職を<専門家>と呼ぶのは止めてくれ!」と言われたので、仕方なく20年ほど前から援助者のことをAAの「関係者」と呼ぶようにしたのです。

この「関係者」には、医療、行政、矯正などいろいろな分野の人が居るのですが、数が一番多いのは福祉の分野の人(ワーカーと呼ばれる人たち)でしょう。その人たちの善意があってこそ、日本のAAがここまで成長してきたのです。だから、その人たちが気を悪くされたら申し訳ないと思いながらも、やはり言っておくべきことは言わねばならぬ、という気持ちがあるのです。

ケースワーカー、ソーシャルワーカーの人たちは、福祉の仕事をしているだけあって、「分け隔て無く、なるべくたくさん」を手助けするという理念があります。個人的にそういう指向性を持っていない人だって、職場の倫理観がそうなんですからね。だから彼らには、AAを福祉の社会資源と捉えて、

「AAは、アルコールで問題を起こしている人なら誰でも引き受けるところ」

であって欲しい、という願いがあり、それがときには「であるはずだ」という思い込みにもなる。それは福祉の理念をAAに押しつけることになる。それに対してAA側は「アルコールで問題を起こしている人には、アルコホーリクもいれば、そうでない人もいる。AAはアルコホーリクのみを対象にしている」ときちんと伝えなくてはいけないのでしょう。

AAのことを正しく伝える努力が弱まると、AAは「別の専門家に任せるべき人」を引き受けるようになってしまいます。それは、その人にとっても、AAメンバーにとっても不幸なことですし、苦しんでいるアルコホーリクが助かるチャンスを減らしてしまいます。

AAメンバーは、AA以外にもやらねばならないことがたくさんあります。仕事もあるだろうし、家庭のこともある。ストレスにつぶれないように、人生を楽しむレジャーの時間も必要でしょう。24時間の中から「AAのメッセージを運ぶ」ために割ける時間は多くないはずです。限られた時間を有効に使うために、対象を真正のアルコホリズムに限定するということも必要でしょう。

だがそれは、どこかで誰かに冷たい態度を取らねばならないことを意味します。12の伝統の中で、伝統5の実践が一番厳しい気もします。

(最近アメリカのGSOから出てくる文章は、AAプログラム(12ステップ)がアルコホリズム以外にも効果があると受け取って欲しくない、というニュアンスが強くなってきています)。

さらに、AAの(真正の)アルコホーリクと、医師が医学的にアルコール依存症と診断を下した人は同一ではない、といことも述べておかねばなりませんが、それについては稿を改めましょう。

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年末年始にこの雑記が書けなかったので・・・

昨年一年の統計データ(Webalizer出力データ)
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