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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■当事者性の限界
クローン病という難病指定されている病気があります。小腸大腸に炎症が起きる病気ですが、根治できないため寛解状態を維持するのが目標になります。治療には腸を休めるために、点滴しながらの絶食が必要になります。この絶食が、何週間あるいは何ヶ月、人によっては何年も続きます。寛解しても、再発すればまた絶食です。僕にはクローン病の経験はありませんが、何も食べられない辛さは想像を絶します。まさに「経験した者でなければ分らない」ことなのでしょう。

さて、ここからが本題。

どうやら、アルコホーリックは、この「経験したものでなければ分らない」はずである、という考えに凝り固まっているようです。それは「あなたに分るはずがない」という考えにつながります。

アルコホーリックは「酒をやめろ」とか「もう飲むな」と言われます。もちろん僕も言われたことがあります。素直に受け取ることはできず、反発したくなります。相手に対して「簡単に言ってくれるなよ。あんた、俺が酒を飲むことをどんなに必要としているか、何にも分っちゃいないな」と言いたくなります。さらには、

「じゃあ、あんたは酒をやめたことがあるのかよ!」

と毒づきたくなります。飲もうと思えば、いつでもトラブルなく酒を飲めるあんたに、俺たちが酒をやめる苦労が分ってたまるか! というわけです。

「酒をやめるために、AAのミーティングに通って下さいね」、とか言われても同じ反応です。なんでそんな面倒なことをしなくちゃいけないんだ。

「だいたい、そう言っているお前は、AAに通ったことがあんのかよ!」

そんなケンカを、医師や看護師やケースワーカーや自分の家族相手にふっかけても、何の意味もない・・・意味がないことはわかっちゃいるんだけど、反発したくなる。その反発の背景には「あなたに分るはずがない」という考えがあります。まあ、実際わかんないだろうしね。

それに対して、断酒会の先輩やAAの「先行く仲間」は当事者としての経験を持っていますから、酒をやめた経験もあるし、例会やミーティングに通った経験もあります。「俺がやったんだから、お前もやれ」と言うこともできます。それによって、反発をすっかり取り除くことはできないにしても、だいぶん減じることはできます。そこが、当事者どうしの良いところです。

12のステップは、やった方が良いことは分かっていても、なかなかやる気になれないものです。特に、自分の欠点を探す「棚卸し」や、傷つけた人への「埋め合わせ」はイヤだし、避けて通りたいと思う方が普通です。いざ12ステップに取り組むときに、ガイド役になってくれるスポンサーは12ステップの経験者であって欲しいと思うでしょう。それは、未経験な人より、経験者のほうがスキルが優れているというだけじゃなく、やったことがない人から「やれ」と言われることに、無闇な反発を感じちゃうのがアルコホーリックだからです。

依存症の社会資源としては、AAみたいな当事者グループの他にも、マックやダルクのような回復施設があります。施設のスタッフはたいてい当事者です。日本だけでなく、アディクションの本場アメリカにおいても、回復施設のスタッフは当事者が多数です。

なぜ当事者がスタッフの多数を占めているのか・・その理由は、ここまで書いてきたのと同じでしょう。立場を共有し、同じ経験を持っていることが重視されるのです。

ところで、施設のスタッフは当事者であると同時に、その立場で金を稼いでいるプロ(職業人)でもあります。先に書いたように、他の分野ではプロであると同時に当事者であるのは、むしろ不都合であったりするのに、依存症という分野ではプロとして当事者であることはしばしば強みになります。

ここまで、アマチュアである相互援助(自助)グループにおいても、プロとして施設スタッフにとっても「当事者である」ことにはメリットがあることを述べてきました(述べてきたつもり^^;)。

当事者であることは、立場や経験を共有しており、共感によって「あなたに分るはずがない」という反発を取り除くメリットがあります。


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09月20日(日)
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