ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
[958910hit]

■翻訳企画:AAの回復率(その5)
これにより、誇張された非現実的な成功への期待を作り出しうる。またそれは、過去の結果の解釈を歪め、過去のAAが高いパーセンテージの成功率を成し遂げていたという誤った印象を作り出しかねない。実際に実現されていたのは推測したほどのパーセンテージではなかったのにも関わらずである。以下に示すように(この時系列では1949年)、ビル・Wが引用した成功率は、5人の候補者のうち1~2人(すなわち全候補者数のうち20~40%)に限って適用されるものであることを理解しておくことが重要だ。残りの候補者(5人のうち3~4人、60~80%)は、ビルによって「短い接触の後でAAをやめてしまった」と記述されたのである。

1941年3月−最初に全国的に出版された50%+25%の記述は、ジャック・アレキサンダーによる歴史的な「サタディ・イブニング・ポスト」紙の記事中に存在する。それによると、

−−−−
アルコホーリクス・アノニマスの人々は、精神病を患っておらず、酒をやめたいと心から願っている(強調追加)飲酒者には100%有効だと主張している。付け加えるに、このプログラムは「酒をやめたいと思いたい」だけの人や、家族や仕事を失うことを恐れて(酒を)やめたいだけの人には効果がない。彼らによると、効果的な願いとは、啓蒙された利己主義(self-interest)に基づくものでなければならず、候補者は監禁や早死にを避けるために酒から逃れたいと望まねばならない。コントロールできない酒飲みが、寒々とした社会的な孤独に嫌気が差すことで、メチャクチャになった人生に何かの秩序が導入されることを望むようにならねばならない。

境界線上の候補者をすべてきちんとふるい分けることは不可能なので、実効的な回復率は100%を下回る。AAの推計によれば、世話をしたアルコホーリクの50%はほぼただちに回復し、25%は1回か2回の再発を経験してから良くなり、残りは未だに確かでない。この成功率の高さは特筆に値する。従来からの医療的・宗教的治療についての統計はないが、非公式な推定によれば通常のケースについては2~3%を越えるものではない。9
−−−−
9. 「サタディ・イブニング・ポスト」1941年3月刊。AAから“Jack Alexander Article About AA” (P-12) として出版されている((C) AAWS, Inc.)。日本語訳は『BOX-916精選集第3巻』(X-07)に収録されている(pp.15-33)。

「AAの推計によれば」という限定詞に目を向けて欲しい。「AAの記録によれば」ではない。歴史的文書によれば、1941年当初のメンバー数は推定2,000人であったものが、1941年の終わりには推定8,000人にまで膨れあがった。10 「精神病を患っていない酒飲みには100%有効」という主張は明らかに誇張であるが、これには「酒をやめたいと心から願っている飲酒者であれば」と同様の限定が付けられているのである。

10. 『アルコホーリクス・アノニマス成年に達する』p.53, 291, 468 および“Pass It On” p.266 いずれも(C) AAWS, Inc.

初期の一部のAAグループはメンバー数や、その断酒期間や、再飲酒の記録を取っていない。こうした限定的な記録に基づいて国や地域レベルの回復成功率を主張するのはふさわしいことではない。ではあるものの、1941年以降、この50%+25%の成功率の数式はAAのマントラ(神秘的な威力を持つ呪文)となり、その数字が変化することがなくなった。パーセンテージはしばしば文脈を外れて引用され、それがあたかもAAに遭遇したすべての候補者に当てはめられる数字であるかのように扱われた。もちろん当てはめられるものではない。これまで述べてきたように、またこれ以後にも示すように、このパーセンテージは候補者全体の一部にのみを対象とする限定がついているのである。

1944年1月−ジャック・アレキサンダーの記事から約3年後、ハリー・チーボー医師が「アメリカ精神医学ジャーナル」誌にて、1935年から1942年の回復率について、同様の、しかし明白な、主張を行った。11

11. 『アルコホーリクス・アノニマス成年に達する』pp.467-468 (C) AAWS, Inc.参照

−−−−
この組織のニューヨーク事務所にある統計は、次のようになっている。
最初の年の終わりまでに5人が回復した。
2年目の終わりまでに15人が回復した。

[5]続きを読む

01月29日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る