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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■翻訳企画:AAの回復率(その1)
AAでの回復率や断酒率は、いったいどれぐらいでしょうか・・・。つまり、AAに行く人の何割が酒をやめられるのでしょうか。

これについては、様々なことが言われています。高い数字を挙げる人もあれば、低い数字を言う人もいます。どの話もだいたい根拠が怪しいものです。単なるヨタ話で済ませておけばいいものを、それをネットに掲げられたり、出版物に掲載されたりすると、なんとなく信憑性を帯びて広がることもあります。

怪しげな数字として挙げられる第一のものは、「AAにおける回復率は数%だ」というものです。代表的な例は5%です。例えば、

Why People Drop Out of AA
https://rational.org/index.php?id=56

上のサイトでは、AAの新人の5割は30日未満でドロップアウトしてしまい、1年後に残っている率は5%に過ぎない・・と主張しています。仮にその5%が全員酒をやめていたとして、ようやく回復率5%ってことになりますね。

まあ、このサイトは「ラショナル・リカバリー(理性的回復)」という、非AAの断酒団体のものですから、AAに対する自分たちの優位性を示そうと、こういった数字を出しているのでしょう。(ただ、後述しますが、この5%という数字の解釈には恥ずかしいほど大きな誤りがあります)。

反対に、こうした数パーセントの回復率という数字を鵜呑みにした上で、数十年前のAAは7割とか8割の回復率を誇っていた、という主張をする人たちもいます。こちらの数字はウソではないのですが(ビッグブックにそう書いてあるしね)、回復率というのは分数で表されますから、分母と分子に何を置くかで数字はいくらでも変化します。そのあたりの事情を酌まないとなりません。

ともあれ、「(少なくとも今の)AAは断酒に有効ではない」という、何を根拠にそう主張しているのか怪しい話に対して、それなりの反証が必要ですね。

そのあたりをじっくり書こうと思っても、ちゃんとしたことを書こうとすれば調べ物に時間がかかりすぎます(それこそ「研究」になっちゃいます)。なにか雑記の良いネタはないか・・と探しているうちに見つけたのが、この論文です。

Alcoholics Anonymous (AA) Recovery Outcome Rates
Contemporary Myth and Misinterpretation
http://hindsfoot.org/recout01.pdf

2〜3年前にここで紹介しようと翻訳を進めていたのですが、忙しくて他のことをしているうちに、どんどん先に伸びてしまいました。特に引っ越し前後からは手がついていなかったのですが、それなりの形になったので、掲載することにしました。

著者はアメリカ在住の3人のAAメンバー。丹念な調査をもとに、5%の回復率の誤解を明らかにし、7割・8割の回復率の謎を解き、今の(アメリカ・カナダの)AAが持っているデータを元にAAの有効性についてどのような主張が可能なのかを検証しています。彼らの主張にまったく偏りがないとは言えませんが、AAの回復率についてこれ以上しっかりした調査は他には見あたりません。

長いので何回かに分けての連載になります。では、お読みいただきたい。

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アルコホーリクス・アノニマス(AA)の回復率
 〜現代における神話と誤解〜

2008年1月1日

(2008年10月11日――2007年のメンバー調査の結果を反映)

はじめに

この論文はAAメンバーのために書かれたもので、AAの歴史的な記録を調査した結果を内外に伝達することを目的としている。AAにおける回復率について広がっている誤解や誤った評価についての情報を、AAメンバーや学術的研究を行う人々に提供する。

アルコホーリクス・アノニマスの共同体は、外部の議論への参加や公の議論を避けるという原則を長年にわたって確立し実践してきた。筆者たちはAAを代弁していないことを強調しておかなければならない。私たちはAAの歴史に関心を持ち、その歴史の解釈の誤りや(根拠のない)神話の蔓延を正す必要性を確信するものである。

アーサー・S、テキサス州アーリントン
トム・E、ニューヨーク州ラッピンガー

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01月24日(土)
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