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つらつらきまま
by seri
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■革命の音楽

芦原すなお著「青春デンデケデケデケ」は、主人公の男の子(ちっくん)が、ラジオから流れて来たベンチャーズの「パイプライン」のエレキギターの音を聞き、稲妻が身体を駆けるほどの衝撃を受けるシーンから始まる。

 この小説の時代設定とほぼ同時期、私の母は試験勉強をしながら聞いていた「オールナイトニッポン」から流れて来た、珍妙な声とふざけた歌詞からなる曲に、(な、何、これ!?)と、ちっくんと同じような衝撃を受け、ひっくり返りそうになったそう。

 「ビートルズは、男のくせに髪ば伸ばして、曲もやかましかけん、好かん」と、同級生にいたら間違いなく友達にはなりたくないタイプであるうちの父も、たまたま同じ番組を聴いていて、同じように(な、何や、これ!?)と唖然としたそう。

 日本全国の中高生が衝撃を受け、翌日からは親世代も一緒になって、あの奇妙な曲が入ったレコードを買い求めた、と思うと何だか可笑しくて、それをリアルタイムに経験出来た人達が羨ましい。

 趣味嗜好がまるで違う人を釘付けにし、レコード店に走らせたその曲は「帰って来たヨッパライ」。

中2の頃。
 合唱コンクールで歌う自由曲を決めなければならなかった。
 “自由曲”といいながら、音楽教師がチョイスしてきた7曲から1曲選ばなければならず、7曲中6曲は、実にたるい曲調か歌詞が説教くさくておしつけがましいかのどちらかで、反抗期まっただ中の私達はうんざりしていた。
 しかし、ある曲が流れだすと、「これがいい!これにすーで!」と大盛り上がりになった。

 しかし、“これがいい!”と思ったのは私たちのクラスだけではなく、7クラス中5クラスがこれを希望した。
 そして、我がクラスはあっさりとじゃんけんの1回戦で負けてしまい、しょーもない歌を割り当てられ、そのくやしさをばねに一致団結して優勝を目指すような思考もなかったため、5位とか6位とか、歌と同じくしょーもない順位で終わった。

 90年代初頭の中2を「この曲を歌いたい!」と熱望させたのは、今や定番中の定番となった「あの素晴しい愛をもう一度」。
 今思うに、学校で歌わされるにもかかわらず、「愛」とか「命かけてと誓った日から」とか、あからさまなラブソングを堂々と歌えるということが、ポイントだった気がする。

過ごした時代は違うのに、ほぼ同じ年齢の頃、同じ人達が作った曲に魅せられた。
 誰でも出来ることではない足跡を残したのに…というのは、当人以外の第三者が思うこと。
 肯定出来る行為ではないけれど、この世で過ごした最期の時期が、これから先のことや遺される人々のことなどは何も考えられないほどの絶望と無力感に襲われていたのなら、せめて、一線を越えた今は、全ての苦しみから解放されて安らかに眠り続けていられるよう祈りたい。
10月19日(月)
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