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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■せっかちになるのもわかるけど/『辣韮の皮 萌えろ! 杜の宮高校漫画研究部』4巻(阿部川キネコ)
休日出勤。
今日は『機動戦士ZガンダムU 恋人たち』の初日であるが、無粋な仕事をこなさねばならないので、諦める。どうせ狭苦しい劇場に暑苦しいオタクがひしめきあっているのである。ちょっと間をおいて出かけてもよかろう……というのは初日に行けなかったことの負け惜しみ。くそう。
昼間、父から突然、職場に電話がかかってきた。
「今日、病院に来れんや」
「もともと行くつもりだったけど、どうして?」
「病院の先生が、話があるげな。本当は月曜日にしてもらおうと思いよったとばってん、今日の方がよかろうて先生が言いござるけん」
父の声が沈んでいるので、悪い知らせかと、いささか不安になる。
しかし、父も何の話か聞かされてはいないのだから、勝手にマイナス思考で思い込んだって仕方がないのだ。
「じゃあ、仕事が終わったらすぐ来るけん」
「五時ぐらいに来れんや」
「まだ仕事終わってないよ。六時は過ぎるから。でもできるだけ早うする」
電話を切って、バタバタと翌日の仕事の準備。
今日の仕事は、昼間ずっと、ある種の「肉体労働」をしなきゃならなかったので、40の坂を越えた身にはかなりなハードワークだった。
バテたというか、ダルいと言うか、ともかく全身が重く感じて仕方がない。もともとデスクワークが主の我々が、どうして「肉体労働」しなきゃならなくなったかというと、役員同士で連絡の不徹底があって、関連業者に作業を依頼する時間が取れず、何の技術もない我々が肉体を酷使せねばならなくなったという次第なのである。
肩を回すと、コキコキとイヤな音がする。ひと仕事終えた後はちょっと風呂にでも入ってからだをほぐしたい気分であったが、そんな時間の余裕はない。ともかく仕事を終えたら、病院に向かってすっ飛んで行った。多分、精神的にもかなりキツキツの状態だったのだろう、あまりに慌てて、職場に携帯電話を忘れていってしまった。
よくあることだと言われるかもしれないが、これまで、職場に携帯を置き忘れた経験なんて、私は一度もないのである。
博多駅に着いた時点で、父からまた電話が入る。
「今、お前どこにおるとや?」
「博多駅だよ」
「まだ博多駅や? 先生、もう待っとらっしゃあぞ」
時計を見ると、まだ5時40分である。
「六時は過ぎるよ、もうちょっと待っとって」
「何時までや?」
父の「せっかち病」に先生の方がかかってしまったのだろうか。でもどう急いだって、これ以上早く博多駅まで来る方法はないのだ。「待ってる」のなら、「待たしとけ」と言うしかない。言うしかないけど、口をついて出てきた言葉は、「もうすぐだから」なのであった。
で、病院に着くなり、父がナースセンターまで私としげを連れて行く。主治医の先生が更に「家族相談室」という密室に親子三人引き連れて行って。雰囲気は更に物々しくなる。もしかしたら、何かまた悪い検査結果でも出たのか……と思ったら。「来週の火曜日に退院していいですよ」。
別に脳梗塞が治ったわけではないが、あとはもうこれ以上動脈硬化などが進行しないように気をつけるしかないので、入院し続ける必要はない、ということである。
「かかりつけのお医者さんで投薬や点滴を続けてください」と言われて、ついさっきまで暗い表情だった父の顔がぱあっと明るくなった。「仕事に戻れんごとなるかと思いよったとです」と、いかにも胸のつかえが取れたように晴れ晴れとしている。
ちょっと安心しすぎじゃないか、腕の感覚異常がなくなったわけじゃないだろう、と思うが、口に出しても父はマトモに聞きそうな雰囲気ではない。とりあえずは退院の準備について打ち合わせをしに病室に戻る。
何時ごろに退院するつもりか父に聞いてみると、「午前中やろうな。請求書もそのころに来るやろう」と答える。私は仕事で迎えには来られないので、しげに荷物運びを頼む。しげ、一応頷きはするのだが、相変わらず父の前では殆ど口を開かない。愛想よくしろなんて言うつもりはないけれど、いい加減で挨拶くらいはマトモにできるようになれないものかね。
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10月29日(土)
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