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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■小津ごっこ
 5月の東京行き、行きの飛行機のチケットは超割で安く買えたのだが、帰りの値段が2倍以上する。入院がなかったならポンと出すところだが、今年は新車のローンもあるので、どうしても緊縮財政で行くしかない。高速バスだと、かなり安くなるのだが、そのかわり東京⇔福岡、時間が14時間かかるのである。……5月まで体調を悪くしないようにしないといかんな。


 一ヶ月ぶりに職場復帰。けど、昨日まで仕事してたんじゃないかってくらいに普通に戻れてしまった。それくらい一日一日に変化のない職場なのである。けれど久しぶりに着た背広が随分重く感じる。別にポケットに重いものなど入れてはいないので、気のせいだとは思うが、もしかしてもうストレスを感じているのだろうか。
 同僚の何人かから、「顎のあたりがすっきりされましたね」と言われたが、実は腹の脂肪は全然落ちていない。この鏡餅がなくなってくれないと、からだが軽くなったという実感は持てない。まだまだ先は長いんである。
 復帰早々、あの仕事この仕事とやたら忙しいが、合間を縫って職場の周りを歩くことにする。上司に「運動しなきゃなりませんから」と断っているので、サボリではない(^o^)。面積だけはただっぴろいとこなので、周回するのに困りはしないが、そんなことをするのは初めてなので、建物の裏手が大きな池になっていて、回りこめないことを初めて知った。いったい何年務めてたんだろうかね。これを迂回してたら、30分はおろか1時間経っても戻って来れないので、同じ道を引き返すことにする。車通りがそう多くはないので、散歩するには悪くない感じだが、同じ道を行ったり来たりしてる不審人物と思われやしないかがちょいと不安である。


 いろいろ持ち帰る荷物が多かったので、しげに車で迎えに来てもらう。
 今日もしげは車に乗ってる間、ペチャクチャと喋りっぱなしで五月蝿い。
 「お前さ、うるさいよ。少しは大人しくできん?」
 「それはムリだね。おれがおしゃべりなのはアンタの影響だよ」
 「だったらオレが落ちついた喋り方したら、お前もそうするか?」
 「してもいいけど、例えばどんな?」
 「も少し、気品というものを持つと言うかさ」
 「気品? 床屋の坊ちゃんにはそれができるって? たかだか日雇い人夫の娘にはとてもムリだね」
 「……そういうことじゃなくってさあ。……別にね、普通に、こんなふうにゆっくりと、お話しすれば、よいのですよ」
 「……じゃあ、わたくしは、このような、話し方をすれば、よろしいのかしら?」
 「……別にそこまで作らなくても」
 「でも、普通にお話ししたら、乱暴になってしまってよ? 今度から私たちの部屋を『オズの部屋』と呼びましょうかしら」
 「……アクセント違うぞ」
 「本の部屋には『東京物語』と付けましょうか。私の寝室は『秋刀魚の秋』ね」
 「それを言うなら『小早川家の秋』と『秋刀魚の味』」
 「つまり、あなたは、笠智衆? 私はさしずめ誰かしら?」
 「……原節子?」
 「……よくってよ」
 何が「よくってよ」だ。
 恐ろしいことに、しげは未だにこれを続けているのである。ああ、舌禍。つまらぬことを口にするものではないと実感。


 父の店に立ち寄って、散髪して貰おうかと思ったが、お客さんが来ていたので来週、改めて来ることにする。見た目、少しは痩せているので、そのことを突っ込まれて入院のことがバレちゃまずいなと思ったが(入院していたことは、父にはナイショなのである。姉にはしげがバラしたが)、特に何も言われず、やっぱり腹の肉が落ちないと「痩せたな」とは言われないか。
 そのあと、「いしむら」に回って、職場の同僚への見舞いの御返しを物色。饅頭の類を適当に詰めあわせてもらうが、ちょうど明日が雛祭りなので「桃まん」なんてのを売っている。どんな味がするか分らないが、語感が気に入ったので(^o^)、これを入れてもらう。実際、饅頭なんて最近殆ど食ってないから、アンコの味だって忘れている。……という心境にまでなってるから、饅頭につい手を出してしまうということもあるまい。漱石が死にかけた「修善寺の大患」は、確か饅頭三つ食ったせいじゃなかったかな。



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03月02日(火)
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