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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■騙されるほうがねえ/『たったひとつの冴えたやりかた』(J・ティプトリー・Jr.)/『ENDZONE』2巻(えんどコイチ)ほか
 訃報が二つ。
 ミステリ作家・生島治郎氏が、2日午後、肺炎のため死去。享年70。
 氏の「兇悪」シリーズ、これは好きで何冊か読んでたんだが(単行本はよく出てたけど、文庫は数冊しか出なかった。あれだけのヒット作家だったのに、なぜかなあ?)、「日本におけるハードボイルド小説の草分け」とか言われてるわりに、結構ウェルメイドだな、と思った印象がある。
 もっとも私は、「ハードボイルド」というジャンル自体、そう信じてはいない。心理描写を全く欠いた、完全に「乾いた」小説など書きようがないと思っている。ダシェル・ハメットだって、ロス・マクドナルドだって、主人公の行動の背景に当然その人物の心理が読み取れるようになっているのである。
 「兇悪」シリーズのテレビ映像化『非情のライセンス』は、主役の会田刑事を演じた天知茂の眉間のシワが全てと言っていいような番組だったが、それでも後年のフヤケタ明智小五郎シリーズよりはずっと出来がよかった。もっとも原作の会田はもっと地味で、確かにテレビほどに饒舌ではない。原作のイメージで言えば、どちらかというと仲代達矢に演じさせたかった感じである。
 文体が乾いている、という点では、生島治郎の後継者は、北方謙三でも大沢在昌でもなく、ましてやいしかわじゅんではなく(^o^)、赤川次郎なのではないかと思っている。実は赤川次郎のデビュー作は、『幽霊列車』ではなく、この『非情のライセンス』のシナリオなのである。赤川次郎が、誰を範として小説を書き始めたかが分ろうというものだ。
 後年の生島さんはあまり好きではない。例によって、『片翼だけの天使』に失望したためだ。在日外国人のソープ嬢との恋愛が成立しないとは思わない。だが生島さんの「思い」はあまりに「甘々」だ。こりゃ破綻するよ、と思っていたら、ホントにそうなった。
 映画になった『片翼』も見に行ったが、あまりに退屈でつまらなくて、途中で席を立って帰った。そんなことをしたのは、『暖流』と『プロ野球を100倍楽しく見る方法』の三本しかない。どんな作品にも一人よがりな部分はあるが、それも程を過ぎると、鼻につくのである。
 でも、この人も文壇的な評価はキチンとされてないって思うなあ。生島さんばかりでなく、大藪春彦も河野典生も小鷹信光も、日本のハードボイルド系作家たちは、みな過小評価されてるように思えてならない(確かに駄作も多いんだが)。アメリカじゃハードボイルド小説はヘミングウェイの流れに連なる現代小説の1ジャンルとしてちゃんと評価されてるってのにねえ。

 もう一つの訃報は、声優兼構成作家の井上瑤さん。2月28日午前、癌で亡くなったことが古谷徹氏のホームページに記載されていた。新聞等に訃報の記事はまだないが、まず間違いなく事実だろう。
 掲示板に以下のように書きこみ。

> 塩沢兼人さんが亡くなったときもショックだったけど、井上さんも……。
> 声優さんはあまり誕生年を発表しないから、正確なお年は分らないけれど、まだ50歳とちょっとだったんじゃないか。早いよ。早過ぎるよ。
> 『ガンダム』を「たかがロボットアニメ」と見ている人たちに対して、ムキになって一番熱弁を振るって擁護してたのが井上さんだった。ガンダムへの思い入れが強過ぎて、富野監督とケンカしたこともあった。それくらい作品に全身全霊をかけてぶつかる人だった。
> アニメが好きで、声優が好きで……。
> あえて断言するけれど、『ガンダム』の声優陣で、一番ファンに近かったのが井上さんだったのだ。
> 寂しい。

 「思い入れが強すぎて」の部分は、役者としては損な部分だったのではないかと思う。『うる星やつら』で最初の2年ほど、ランを演じていたのが、突然「インドに行って来る」と役を降りてしまった(後任は小宮和枝さん)。絵に描いたような思いこみぶりに、多少の心配を覚えたのも事実だったので、後に『うる星やつら完結編』のカルラ役で復帰したことは嬉しかった。
 声優の活動だけでは飽き足らず、『クイズダービー』の問題作成も長い間されていた。ともかく雑多な知識欲の旺盛な方で、唐沢俊一さん以前の一行知識マニアでもいらっしゃったのである。

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03月04日(火)
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