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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■ウナセラディ東京/江戸東京たてもの園/『ヒカルの碁』12巻(小畑健)
東京旅行2日目。
昨日の曇天はどこへやら、今日は一日気持ちのいいほどの晴天である。
朝の4時か5時ごろ、しげが寝ている私を揺り動かして起こそうとする。
「ねえ、起きて、退屈」
どうもまた興奮して寝つけずに目が覚めてしまったらしい。
しかし私とて体を休めておかねば残る二日を乗り切れない。
「おれのポケットに入ってる文庫本でも読んでろ」と言って、また眠る。
しげにしてみれば相手にされなくて不満だろうが、短い旅行に夫婦も親子もないのだ(だったらするなよ旅行)。
起きたのは朝の8時。
たっぷり寝かせてもらったので、体調は頗るよい。
二階の部屋を借りていたので、さて、こうたろう君のご家族がもう起きているのかどうか、よくわからない。
気配で多分もうお目覚めだろうと降りて行くと、お目覚めどころか、もう朝食の準備までして下さっている。
ああ、コンビニで食べようと思っていたのに、またお世話になってしまった。
ここでこうたろう君の息子さんと娘さんにご挨拶。
夕べは会えず、代わりに息子さんがコレクションしているらしいウルトラ怪獣のガチャポンの群れにお出迎えされたのだが、ようやくご対面である。
うわあ、お父さんによく似ている。
娘さんはお母さん似かな。
……実はこの二人、この日記の中でなんと呼んだらいいのか困っている。
お父さんは「与太郎でいいよ」と言うが、そうもいくまい。しげはお兄ちゃんが与太郎なら妹は与太子?」と言うがますます変だ。しんちゃんとひまちゃんでもいいのだが、本人の許可を取ったわけでもないので、味気なくはあるが息子さん娘さんのままでいく。
お父さんがこの二人を立派なオタクに育てようとしているらしいことは、これまでもメールのやりとりで知ってはいたが、実際に目の前で、親子の会話がオタク化しているのを聞くのはなんと言ってもうらやましい。
ちょうどこの日の朝は、私がプレゼントに持ってきた『デジモンアドベンチャー』のDVDをかけて親子で見ていた。
お父さんが「アグモンは進化する前はなんて名前だったかな?」と聞いて、息子さんが「チビモン?」と答える。
「チビモンじゃないよ……あ、コロモンだ」てな会話だ。
ありふれた会話に聞こえるかもしれない。
けれど私は親父やお袋とこんな会話をしたことはない。オタク差別はまず親からというのが30年前の常識だったからだ。
ああ、俺も子供のころ、親父とこんな会話をしてみたかったなあ、と、見ているだけで泣きそうになるのだ。
こうたろう君に案内してもらっている間、息子さんは車の中でウルトラシリーズの主題歌CDを延々と流しているし、「有久さんはどの怪獣が好き?」なんて聞いてくる。ガチャポンの怪獣もよく覚えていて、「ブラックエンド」なんてマイナー怪獣を簡単に答えたりする。その「自由さ」がうらやましい。
子供の頃、怪獣とかマンガに関することを聞くこと自体、私の親父は許してくれなかった。何度もマンガを捨てられ、自分で描いた怪獣図鑑を破られ、映画のパンフを破られた。まさしく私は「抑圧された児童」だったのである。今思い返してみても、よく親を刺さずに生きてこれたと感心してしまう。
もちろんそれをしなかったのは、マンガを読めなくなるからにほかならない。そこまでされても、いや、そこまでされたからこそ、私は怪獣好きをやめられなかったし、マンガを読むのを諦めなかった。
今、親父は、「大人になったお前と酒を飲みたかったのになあ」と愚痴を言う。でもそれは無理だ。私が病気になって禁酒をせざるをえなくなったからじゃない。今までに一度だって、私は親父と本気で腹を割って話をしたことがない。させてもらえなかったのだ。
夜、遊び疲れた息子さんをおんぶしているこうたろう君を見て、つい「うらやましいなあ」とつぶやいてしまう。
独り言だったのに、小耳にはさんだしげが、「おんぶされたいの?」と聞いてきたので、「お父さんっていいなあってことだよ」と答える。
このあたりの感覚がしげに通じないのもちょっと悲しい。しげはまだまだ「おんぶされたい」側にいる人間なのだ。
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05月04日(金)
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