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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■狂乱の終わり……始まり?/『横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙』(角川書店)ほか
 もう一つ、正史は、金田一耕助の造型に明らかに初期の明智を流用している。随筆では一切そのことに触れようとしなかった正史だが、『横溝正史読本』での小林信彦との対談で、「明智が変わったから、金田一をああいう男にできた」とハッキリ語っている。……常識的に考えたら、「金田一は明智のパクリですか?」とは分っててもとても聞けない。小林信彦、よくぞ聞いてくれたってなものだ。

 正史が金田一を造型したのは、明智が変わってから20年を経過した戦後のことだから、その連関性は薄いようにも思える。
 しかし、その「変わった」明智シリーズに、実は横溝正史をモデルにした人物が新たに登場していた、と言えば、驚く方もおられようか。と言っても、それなりに根拠はあるのだが、これもまた私の邪推ではあることを先にお断りしておきたい。でないと熱心な正史ファンの方の中には、ショックを受ける方もいらっしゃるかもしれないので。
 それは明智の妻、文代夫人である。
 ……あ、そこの人、コケたりしない(^_^;)。
 女じゃん、と突っ込まれそうだが、この文代夫人、初登場からしばらくは、スパイ顔負けの女探偵として活躍していたのだが、小林少年が登場してからは体を悪くして療養生活に入ってしまうのである。
 実は正史のデビューは乱歩より早い。しかし、横溝正史は若いころから結核を患っていて、乱歩が招聘するまで、兵庫で引退して薬局の主人をしていた。それを乱歩の旺盛な活動に触発されて、上京してきた。雑誌『新青年』の編集長もやった。作家活動も再開したにもかかわらず、再び喀血して、正史は岡山に隠棲してしまう。
 そのあと、乱歩は衆道趣味の知人である岩田準一と、ソチラ方面の資料収集に深く関わっていく。しかし、もともと乱歩が「美少年に会いに行く」趣味を共通して持っていたのは、正史とであったのだ。しかし正史は乱歩から「捨てられた」。明智が、その伴侶を文代夫人から小林少年に移していったように。
 これを正史はどう受け取ったか。
 明智は乱歩だ。
 文代は正史だ。
 乱歩が呼んでくれたから、正史は作家になった。なのに乱歩は、もう自分のことは忘れているかもしれない。
 戦後、正史の体調が回復し、明智を自分のものにしようと考えたのは、乱歩自身を取り戻したいとする、モトカレとしての代償行為ではなかったか。
 ……長くなったので、続きはまた明日の日記で。

06月18日(火)
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