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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■無責任賛歌事始/『エマ』6巻(森薫)
 第一巻のころは、ほのぼのメイドさんものかと思っていたのが、何かもうものすごい大河恋愛大ロマンになりそうな気配の第六巻だけれども、アニメはたった12話ではとてもそこまでは行かなかったようだ(DVDで買ってるから、まだ最終回までは見てないのである)。しかし、原作がまたある程度進んだら、再アニメ化してほしいね。もう話はどんどん凄いことになってるから。
 エレノアとの婚約を解消し、エマとの結婚を決意するウィリアム。しかし、エレノアの父・キャンベル子爵は、ウィリアムの父・リチャードからの手紙を読んで、「陰謀」を巡らし始める。エマは、ウィリアムの名前を騙った手紙におびき寄せられ、拉致されてアメリカ行きの船に乗せられようとする……。
 何かもうここまで来ると、少女マンガの三大ロマンは『ベルサイユのバラ』『キャンディ・キャンディ』、そして『エマ』だと言いたくなるくらいの怒涛の展開。
 前巻から登場のキャンベル子爵、貴族主義の塊のような人物で、本当はウイリアムのジョーンズ家のことも「成り上がり者」と嫌悪しているくせに、なぜか娘との結婚話は強硬に実現させようとしている。そのハラがまだいっこうに見えないので、いささか不気味である。こういう紳士然とした悪役、『三銃士』のリシュリュー卿かドラキュラ伯爵かってもので、私の好みにドンピシャなのだ。もう、『エマ』が実写化されるんだったら、ぜひクリストファー・リーに演じてもらいたいってくらいなもので(キャンベル子爵はそこまでトシヨリじゃないけど)。こいつは自分が貴族だから、何をやっても許されると思っている。裏でエマを誘拐させといて、サロンで「近頃何か変わったことでも?」と問われて、「ないですね。退屈なものです」と無表情で言い切るこの冷たさ! こいつ、本当に「退屈」してるんだよ! エマのことなんて、歯牙にもかけてやしないのだ。ああ、やなやつやなやつやなやつ。
 権謀術数はお手のモノってな子爵にかかっては、ウィリアム坊ちゃんなどはとても立ち打ちできそうにないのだが、ラストのリチャード父ちゃんとの怒涛のような(この形容詞がどうしても多くなっちゃうな)応酬に、ちょっと「イケるかな?」と思い直した。
 ヒーローは常に逆境に立ち向かう。そして、その逆境に打ち勝つことができるのなら、ウィリアムとエマは絶対に幸せにならなければならない。ヒーローとヒロインもそうなろうとしているし、読者もそれを望んでいるし、当然作者もハッピーエンドを目指して、そこに至るまではこれでもかこれでもかという困苦と愛憎の物語を展開させてくれることだろう。
 その三者がみな幸せになるのが「ロマン」というものの正体なのだ。二人は決してロミオとジュリエットにはならないのである。

09月07日(水)
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