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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■多分、世界はいやになるくらい狭い/『アガペ』2巻(鹿島潤・石黒正数)
 交渉に失敗して死人を二人も出してしまったはるか、精神的ショックから失語症になったばかりか、仲間であり好意も抱いていた同僚、武市涼宇の存在も忘れてしまう。いや、単なる記憶喪失ではなく、武市の存在を脳に「書き込み」することすら出来なくなってしまうのだ。
 ……とまあ、ここまではもうこれまでマンガでも小説でも映画でもいくらでもある展開なのだけれど、はるかの愛が得られないと知った武市が、突然「自分が事件を起こせばはるかは交渉人として自分を愛するようになってくれる」と、「東京ドームにサリン撒くぞ」といきなり犯罪者になってしまったのには正直唖然。「八百屋お七かよ、お前は!」 (笑) 
 「神の愛」なんて、幻想でしかないものを、生身の人間の肉体に宿らせようとする作者たちの意欲はまあ、立派かなあと思わないでもないのだが、2巻でもう、手詰まりになりつつあるようである。はるか、全然「無償の愛」の体現者には見えなくなってるし。エゴイストじゃなきゃ「特定の人物の記憶だけを無くす」なんて都合のいい記憶喪失に陥るわきゃないでしょ。事件の「締めくくり」も、果たして武市を救ったことになったのかどうか。武市が更なる犯罪に走ったっておかしかないと思うが。
 けれどもし、作者たちが、「『アガペ』なんてない」という結論に持っていくことを目論んでいるのだとしたら、一応は物語としての整合性はあると言えるのだが、今更そんな分かりきった「事実」を結末に持ってこられたって、楽しくも何ともないのである。ここはやっぱり、はるかが「アガペ」を取り戻す展開に無理でも持っていかなきゃならんところなのだが、そういう手段、ちゃんと考え付いてるのかねえ。

04月25日(月)
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