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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■勲章って文学賞じゃないでしょ?/舞台『父歸る』(見てないけど)/『鉄人』1・2巻(矢作俊彦・落合尚之)
「矢作俊彦」という名前を、『マイク・ハマーへ伝言』などのハードボイルド小説の一人者として捉えるか、マンガ『気分はもう戦争』の原作者として捉えるかでその人のシュミがわかるってよく言われてたけけれど、カバーの折り返しを見たら、映画監督までやってた。『ギャンブラー』? 知らんぞそんなん。Vシネか?。
ミステリファンとは言っても、私の場合、好みは本格に限られてて、ハードボイルドは草分けであるダシェル・ハメット、レイモンド・チャンドラー数冊程度で止まってるので、矢作さんが影響を受けたと思しいミッキー・スピレーンは実は『裁くのは俺だ』が積読のまま。なんかイマイチ知的興奮を揺すぶられないんだよね(だから流行りの濱マイクシリーズにも特にハマってない)。
それでも『気分はもう戦争』は、80年代当時、マンガファンには「必読」ではあった。けれど、実はこれも私は斜め読みしかしていない。緊迫していく戦争の状況変化と、その中であくまで軽薄な自分たちの姿勢を崩さない若い主人公たちの行動とのギャップが、それが作者の描きたいことであるとわかってはいてもなんとなく「あざとく」感じられて好きになれなかったのである。今思えば「世の中には茶化していいことと悪いことがある」とかクソ真面目に考えていたのだね。石川喬司か(←蛇足の注。昔、筒井康隆が『ベトナム観光公社』を書いた時に、こう言って怒ったのである)。
それが、そのあと数年で「シリアスな状況のなかでこそフザケる」ギャグを飛ばしまくる押井守作品に狂喜することになっちゃったんだからねえ。私も心が広くなったものだ(ちなみにオビの推薦文は大友克洋と押井守。身内誉めか?)。
で、『鉄人』である。
マキシマムな世界の状況とミニマムな少年たちの日常を対比させつつドラマ展開させて行く手法は変わらないが、それが『気分』よりずっとダイナミックに読者に訴えかけるようになっているのは見事。
近未来の中国(2003年って、来年じゃん。えらい近くに設定したなあ)、「日中戦争当時の不発弾処理」の名目で作業中の母・冴子に呼ばれて、主人公の小学4年生・鳶尾翔は自分も中国に渡る。
そこで見た奇怪な白虹現象、地下街に隠された巨大な「鉄人」。ついうっかり鉄人に乗り込んだ翔は、コントロールできないままに長春の街を破壊していく。
「人を殺したかも」と怯える彼の前に現われる二人の人物、ロシア・マフィアに通じているらしい中国人の少女、虎姫(フーチー)と、忽然と幽霊のように現われた「行方不明」のはずの父・ダグラス。
誰がいつなんのために鉄人を作ったのか、何一つ状況が分らぬまま、翔はただ翻弄され続ける。
いやあ、面白い。これがかつてのロボットマンガの名作に依拠していることは明らかだけれど、実にうまく現代化されてる。「鉄人」がどうやら旧日本軍によって開発されたらしい設定や、そのデザインなんかはモロに「鉄人28号』からのイタダキだし、主人公がロボットをうまく操縦できなくて暴れてしまう展開は原作版『マジンガーZ』そのまんまである。なのに安易なパクリという印象がしないのは、中国国務院・人民解放軍、ロシアマフィア、日本外務省及び陸自と、それぞれの思惑が錯綜するリアルな背景を描いている点、それから、その混乱の中で、主人公が自らの意志を模索して行くという、マンガの王道をきちんと押さえているおかげだろう。2巻の段階でまだ翻弄されっぱなしだけどな(^o^)。
もっとも、翔の名字が「トビオ」で、持ってる犬ロボットの名前が「アトム」ってのはちょっとあざといけどね(^_^;)。
キャラ的に御贔屓なのは大阪弁を喋る中国人少女の虎姫だけれど、なんかこの子って『独立愚連隊』シリーズに出てくるような「馬賊のムスメ」っぽいんだよなあ。多分この想像は当たってると思う。だって2巻には「岡本喜市」ってそのまんまなキャラまで出てくるから(^o^)。これもちょっとアザトいか。
ただ、いささか弱いな、と感じるのは作画の落合さんである。ヘタじゃないし、原作の要求するレベルに一生懸命答えようとしているのは分るのだけれど、やや力不足の感は否めない。全般的にレイアウトがイマイチだし、リアルに描こうとして、かえってマンガとしての迫力に欠ける結果になっているのだ。
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11月04日(月)
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