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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■癒してくれなくていいってば/映画『怪盗ジゴマ 音楽編』/『夏のロケット』(川端裕人)ほか
常識的に考えれば、たった五人で有人宇宙ロケットを打ち上げるなんてことは絶対に不可能であろう。これを一つのファンタジーとして考えるなら、それはそれでドラマとして成り立たせる方法はいくらでもある。細かい設定は無視して、「こんなこともあろうかと」、新開発の技術でも超合金Zでもでっちあげればいいのだ。
しかし、作者はあくまで、「現在の技術だけでも、宇宙ロケットを製造することは可能」という点に徹底的に拘った。資金、材料、ロケットの規模、実効性、全てに拘り、そのディテールを重ねて行くことによって、企業にその気さえあれば、超低予算(と言っても何十億かはかかるけど)でロケットを打ち上げることが可能であり充分ペイすることを証明していくのだ。何しろ、合金製造のために日本の「刀鍛治」に依頼にまで行くのである。そのアクロバティックだがリアリティのある設定に何度酔いしらされたことか。
もしあなたが、かつて「流線型のロケット」に憧れた過去を持つなら、本書を読みながら、知らず知らずのうちに五人に感情移入しながらロケットの実現を「本気で」応援している自分の姿を発見していることだろう。実際、読了後に思ったものだ。どこぞの企業、法律違反無視、会社つぶす覚悟でロケット打ち上げる度胸を示してはくれないものかと。
物語中、彼らの計画は何度も頓挫しかける。最大のピンチは、爆破事件を追う警察に、ロケット製造をミサイル製造と勘違いされ、秘密の実験を繰り返している島を発見されそうになるクライマックスである。
時間との戦い。近づく嵐。マスコミのヘリコプターが上空を迂回して行く。警察はもうすぐそこだ、早く打ち上げなくては間に合わない、ところがそんなギリギリの状態のときに、メンバーの一人がとんでもないことを言い出す。果たして打ち上げは成功するのか。
……これ以上はネタバレになるので言わないが、彼がある瞬間「笑った」時、私は読みながら「泣いて」いた。
プロローグでは、火星に着陸しようとする宇宙飛行士たちの描写が紹介されているが、この小説のラストは、直接このプロローグにリンクしてはいない。このプロローグがただの夢なのか、それとも主人公たちの未来の姿なのかは明示されないまま終わる。その間の物語を補完するのは読者の手に委ねられた。ということなのだろう。
06月20日(木)
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