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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■いつか親を殺す日/ドラマ『火垂るの墓』/『光車よ、まわれ!』(天沢退二郎)
あのオバサン、自分の夫がいくら戦死したからって、特高に聞かれたら逮捕されかねない「軍人は国を守ってなんかいないわ。大切な人を死に追いやってるだけよ」なんてセリフを口にするのは、その時代の人間としてはどう考えてもおかしい。どうも脚本の井上由美子、思想的にかなり左がかってんじゃないかって匂いがプンプンするのである。
オバサンが、盗みを働いた清太の引き取り人になっておきながら、再び「あなたに食べさせるものは何もないの。これが戦争なのよ」と言って突き放すに至っては、何をか言わんやだ。警官に保証人として指名されておきながらそれを反故にすることなど絶対にあり得ないことだし、「これが戦争だ」なんてセリフは、戦時中なら、戦争に批判的なアカしか言わない。庶民が言っていたのは「今は戦時なんだから」で、これも、「だからワガママ言わずに我慢して」と「協力し合う」ためのセリフであったのである。
ここまでくれば、「歴史の捏造」と言ってもいい。この脚本家は明らかに思想的に偏っている。いや、偏っていたとしてもそれはその人の思想の自由だから文句をつけるわけにはいかないのだが、歴史的に現実には絶対にありえないセリフを書いて、視聴者を誘導しようというのは、戦時中の「大本営発表」と同じである。そのことに脚本家が気付いているのかいないのか。気付いていたとしたらこいつはとんでもない卑劣漢だし、意図的でないなら底抜けのバカである。
でも脚本はねえ、バカに書かせなきゃまだ改定の余地があるんだが、どうにもならないのは、戦時中で食料もないのにふくよかなオバサン役の松嶋菜々子かな(笑)。芝居もなんでこの人はこう、気取るばかりで、リアルな演技ってものができないかね。『リング』と同じ演技を『火垂る』でやるなよ。
唯一よかったのが、子役の二人で、特に佐々木麻緒ちゃんの演技にはもう舌を巻く。やっぱりこの子は日本のダコタ・ファニングだよ。
単に、アニメ版の節子がそのまま抜け出てきたと錯覚するくらいに似ている、というだけではない。『ウルトラマンマックス/第三番惑星の奇跡』の時にも思ったことだが、この子はわずか六歳にして、直観的にスタニスラフスキー式の演技を体得しているのである。ラストなんて本当に死んだようにしか見えん。
そう言えばこの子、『妖怪大戦争』でもスネコスリ役だったんだよな。あの映画は神木隆之介君、佐々木麻緒ちゃんという、日本に大天才子役の共演映画だったわけだ。
でも、清太と節子のシーン、特に蛍を防空壕に放つあたりのシークエンスは、構図からカット割りまで殆どアニメ版の模倣なのだった。……実写にする意味ねえよ、この映画。
えーっと、「はてな」の方では誉めてるような書き方をしましたが、あくまで麻緒ちゃんの演技についてだけです。あっちは基本的に「いいとこ探そう」というスタンスで書いてますから、こっちとはどうしても感想変わっちゃうんでね。
天沢退二郎『光車よ、まわれ!』(ブッキング)。
西に『ナルニア国ものがたり』『指輪物語』があれば、東には『オレンジ党』シリーズありと、日本ファンタジー史上の金字塔と言ってもいい傑作シリーズの「露払い」である本作が、昨年、17年ぶりに復刊。いや、私、てっきりこの本は持っていると思っていたのだけれど、図書館で借りて読んだから買ってはいなかったのだということに気がついた。また絶版にならないうちに、他のシリーズも買わねばな。
児童文学やファンタジーに詳しい人なら、今更本作の価値を説明する必要もないのだけれど、長らく絶版だったということは、そんな基本的な常識もすっかり失われているということである。
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11月01日(火)
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