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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■記録の魅力/『ロケットマン』6巻(加藤元浩)
 なんかホントに野暮な解説になっちゃって、彼には申し訳ないのだが、これはグータロウくんが傲慢になってるわけでもなければ、知識をひけらかしてるわけでもない。これは、たけしもグータロウくんも、同じ「下町」の空気を吸って育ってきた人間からこそ言える、「共感」としての述懐なのである。
 かつて、「芸人」と「客」とが一体となっていた寄席や芝居小屋での感覚、芸が受ければ客は喝采するし、つまらなければさっさと帰る、その中で芸人たちの「芸」が自然に磨かれていく、その関係のままにグータロウくんは発言しているのだ。
 別に客だって芸人を育てようなんて滅多なことは考えちゃいない、ただ素直に面白いものは面白い、つまらないものはつまらない、そう思ってるだけのことなんだが、だからこそ芸人は受けるためには闇雲に精進をしていた。つまんない芸を披露すれば「田舎へ帰れ」と罵倒されるのが普通なのだから当たり前である(まあたけしはもともと下町生まれだけど)。
 グータロウくんには、たけしが映画においてはなぜ「空気」を扱えないのか(舞台での「空気」の感覚に馴れていると、映画においてそれを表現するのは空気を「作る」ことになり、すごく「照れくさくなる」のである)、「殺陣」に「タメ」を作れないか(これも照れくさいからである)、それが感覚的にわかる。分かるからこそ「ダメ」だと言える。それは同じ土地の空気を吸い、文化を共有して来ているからこそ言えることなのである。
 私はだからこそあえてあの映画を「かわいい」と表現したのだが、この言葉もグータロウくんから見れば「照れくさい」、いや、「しゃらくさい」表現ということになるかもしれない。どっちにしろ、グータロウくんのような立場での批評は貴重である。やっぱりねえ、「外国人が日本を舞台にして作った映画」みたいにさあ、共通の文化基盤を持たないで何かを語ってもねえ、どうしてもどこかトンチンカンなものになっちゃうのよ。


 マンガ、加藤元浩『ロケットマン』6巻(講談社/月刊少年マガジンコミックス・410円)。
 主人公の水無葉が情報組織「トゥルー・アイズ」のエージェントになって以来、加藤さんのもう一つの傑作シリーズ『Q.E.D.』との差別化が難しくなってるけれども、面白いからいいんである。
 Episode19『賢者の石』と20『たった一兆』の前後編、今回のテーマは「投資」。
 80年代に設立された投資会社フェイソン・トレーディング。その創立者である金融工学の天才、ロジャー・フェイソンの確立した「フェイソン理論」に基づいた投資は、何十億ドルもの利益を生み出していた。しかし世界的な不況がフェイソン・トレーディングを急激な破綻へと追いこんだ。一社の破綻が連鎖反応を起こし、世界市場は恐慌、引いては市場停止にすらなりかねない状況にあった。
 その最中に、事態を収集する可能性を持っていたロジャー・フェイソンが謎の「自殺」を遂げる。けれどそれが自殺だとどうしても信じることのできない少女がいた……。
 「レバレッジを利用した巨額なお金の応酬、そして情報戦!! それはネットワークを流れるただの数字だけのやりとりを通じてなされる。自分の思惑通りに市場を動かそうとお互いが圧力をかけ合う。もはや経済ではない。世界のお金はゲームで動いてる」……このセリフを口にするのは、経済学者でもなければ資本家でもない。主人公の葉でもない。今回のゲスト、弱冠14歳の少女、エミリー・フェイソンのセリフなのである。タイトルの「たった一兆」は、そのわずか一兆円の儲けのために人間の命が奪われる理不尽を告発したものだ。
 これはフィクションである。マンガである。けれど現在の「経済」がただのゲームに成り下がっていること、それは紛れもない事実だ。世の中にはバブルの崩壊で「儲けた」やつだっているのだ。

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09月22日(月)
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