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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■「時代劇の復興」というのはこういうのを指すのだ/映画『座頭市』ほか
 金髪なら、眠狂四郎もそうだったじゃないか、と言い出す方もおられようが、あれには転びバテレンの息子、という設定がある。座頭市には本来、そんな設定は施しようがない。意外と知られてないが、原作の『座頭市物語』は、作者の子母沢寛が土地の人から聞いた実話をもとにして書いた小説なので、座頭市は実在人物なのである。アナタ、坂本竜馬が実は紅毛碧眼だった、とかいう小説を書いたら歴史家からフザケンナって言われちゃうでしょう。
 けれども、やたらハシゴ外されてるにも関わらず、この映画、決してつまんなくなってはいないのだ。ただ映してるだけに見えて、画面の持つ緊張感がただごとではないのはいつものたけし映画になってるんである。


 街道で一人、休んでいる金髪頭の座頭、市(ビートたけし)。近づいてきたヤクザは、子供に頼んで市の仕込杖をそっと奪う。市が丸腰になったと思い、刀を振りかざすヤクザたちだったが……。
 この冒頭のシーンで、もういきなり北野監督の「外し」が入る。
 市に襲いかかろうとしたヤクザの一人の抜き放った刀が、勢い余って隣にいた仲間を斬ってしまうのだ。
 私も時代劇を結構な数、見てきたつもりではあったが、こんなシーンを撮った監督をこれまでに見たことがない。第一、映画の流れを阻害するにも等しいこんなカットを挿入したら、普通は大バカの烙印を押される。
 けど、不思議なもので、このうっかり斬ってうっかり斬られたこの二人のワンカットが実にリアルでかつおかしいのだ。「流れが壊れているのに惹きつけられる」。
 北野武の映画を楽しめるか楽しめないか、観客は実はこの時点で「試されて」いるのである。こういう例を挙げていったらキリがないし、中にはネタバレに引っかかるものもあるので、ワケの分らないキャラだの、コマギレの編集だの、どんでん返しだの、あとの細かい「外し」は実際に映画館で見て、確かめていただきたい。
 監督の「照れ」を感じることができればこの映画、とても「かわいらしく」見られるはずである。

 その日、三組の旅人が、同じ宿場に入った。
 一人は座頭市。
 二組目は服部源之助(浅野忠信)と妻おしの(夏川結衣)。某藩の師範代であったが午前試合である浪人に打ちのめされ、脱藩してその男を追っている。
 三組目は旅芸者のおきぬ(大家由祐子)、おせい(橘大五郎)の姉妹。二人は、幼いころに自分たちの親を殺した盗賊に復讐するため、その行方を探し求めていた。
 そしてその宿場町は、ヤクザの銀蔵(岸部一徳)と分限家の扇屋(石倉三郎)に仕切られていたのだった。

 筋の紹介はごく一部に留めておきたい。ビートたけしは浅草時代に習い覚えた殺陣に工夫を加え、迫力のある映像を作りあげることに成功している。いやもう、痛そうな絵ですわ。σ(TεT;)
 遊び人新吉(ガダルカナル・タカ)の飄逸な味わいや、野菜屋のおうめ(大楠道代)のキモの座りっぷりもいい。
 CMでも目立っていた「ゲタタップ」だが、これを違和感なく構成した妙も見事だった。


 『座頭市』、文句なく私のフェバリット時代劇に入っちゃったのだが、ついでだから、時代劇ベストテンも選んでみよう。もっともテンではとても収まり切れなくて、ベスト20になっちゃったけれど。
 これでもとても絞り切れていないことは、『七人の侍』や一連の『忠臣蔵』や、『鞍馬天狗』『旗本退屈男』『遠山の金さん』『銭形平次』『宮本武蔵』といったシリーズものが軒並み落ちていることからもご想像頂きたい。
 とても順位は付けられぬので、今回ばかりは時代順である。いちいちコメント付けてたらまた字数オーバーするのは目に見えているので省略、内容知りたい人は自分で調べてちょ。


1.『雄呂血』(阪東妻三郎主演/二川文太郎監督/阪東妻三郎プロ=マキノプロ=1925)
2.『右門一番手柄 南蛮幽霊』(嵐寛寿郎主演/橋本松男監督/東亜キネマ=1929)
3.『丹下左膳余話 百万両の壺』(大河内伝次郎主演/山中貞雄監督/日活=1935)
4.『赤西蠣太』(片岡千恵蔵主演/伊丹万作監督/千恵蔵プロ=日活=1936)
5.『人情紙風船』(河原崎長十郎主演/山中貞雄監督/P.C.L.=東宝=1937)

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09月07日(日)
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