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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■東京曼陀羅/「ミステリー文学資料館」ほか
しげも本好きではあるが、堪え性がないし、自分がほったらかしにされるのが大嫌いだから、一日図書館で過ごす、なんてこと頼んだら、即座にヒステリーを起こされてしまうだろう。ミステリー資料館でヒステリーだなんてヘタなシャレじゃん(-_-;)。
心置きなく、資料を物色する。残念ながらそれでも時間は足りないので、『探偵趣味』『探偵倶楽部』や『ヒッチコックマガジン』などに手を出すのは断念し、『新青年』と『宝石』のみに絞る。
戦前の横溝正史編集長時代の『新青年』の編集後記など、乱歩の『陰獣』を絶賛しているのだが、戦後、乱歩が編集した『宝石』では正史の『悪魔の手毬唄』を「ライフワーク」と誉めつつも「『獄門島』に比べて地味」とか書いている。全く、この二人のライバルときたら(^_^;)。こういうのもコピーしたかったのだが、これも量が膨大になりすぎるので泣く泣く諦める。同様の理由で、明智小五郎や金田一耕助のイラストも殆どコピーせず。片岡千恵蔵の映画の影響か、ごく初期から金田一が美青年に描かれているのは新発見であった。
乱歩が編集長を務めていたときの連載のラインナップがまたすごい。松本清張の『零の焦点』、高木彬光の『成吉思汗の秘密』、横溝正史の『悪魔の手毬唄』、そして乱歩御大の『探偵小説三十年』である。乱歩は自分が編集長になったのに『宝石』がイマイチ売れなくて憤慨していたと言うが、これでどうして売れなかったのか、謎だ。正史がこのころから探偵小説を書かなくなったのはわかる気がする。ラインナップの三番手、清張の後塵を配するような立場では、内心、煮え湯を飲まされた気持ちになっていたのではないか。
しかし、目次を見ているだけで、時代が見えてくる、当時の雰囲気が伝わってくる。まさにここは探偵小説ファンのメッカであった。
結局、コピーしたのは戯曲を中心として、単行本収録の見込めないものばかり。それもとても全部は紹介しきれないので、一部だけ。
モーリス・ルブラン原作・松野一夫画『アルセーヌ・ルパン 古燈の秘密』(『宝石』昭和21年8月号)。
3ページの絵物語。原作はもちろん『ルパン対ホームズ(ショルムス)』の『ユダヤのランプ』。『新青年』の表紙を飾るモダンなイラストを描いていた松野氏だが、挿絵を描かせると朴訥な絵を多く描いた。そのせいか、フランスはパリを舞台にしていながら、キャラクターは丸っこく、どこかほのぼのとしている。ルパンもショルムスも丸い丸い。もとが四色なので、こういうのはやっぱりカラーでコピーしたかった。
江戸川乱歩原作・樋口十一脚色『二廃人』(『宝石』昭和23年10月号)。
これは原作自体が戯曲的筋立てなので、結構面白くなるんじゃないかと思ったが、まさしく原作どおり。ただし、主人公の述懐を原作では心に思うだけなのを、芝居ではいちいちセリフにせねばならないので、そこがどうしても不自然になる。これは役者の力量が問われるところだろう。新国劇で岡秀夫と磐城吉二郎によって演じられたそうだが、出来はどうだったのだろうか。
横溝正史原作・武田武彦脚色演出『びっくり箱殺人事件』(『宝石』昭和25年4月号)。
探偵役の深山幽谷先生はもちろん江戸川乱歩。ほかにも木々高太郎、城昌幸、香山滋、山田風太郎、水谷準、大下宇陀児、島田一男、高木彬光と、そうそうたる面々がご出演だが、原作が長編のわりには途中、解説がやたらと入って、時間は意外に短い。やはり文士劇のシロウト芝居で長時間は持たせられぬと判断したものだろう。というか、セリフは殆ど幽谷先生こと乱歩の出ずっぱりである。乱歩の芝居好きの趣味に、ほかの探偵作家が付き合わされた格好か。
江戸川乱歩・幸田文対談『幸田露伴と探偵小説』(『宝石』昭和32年8月号)。
乱歩はこの対談のときまで露伴が無類の探偵小説好きであったことを知らなかったようだ。中島河太郎氏の研究によって、今の我々には露伴が『あやしやな』という、黒岩涙香の『無残』に次いで、創作探偵小説を書いていたことも知っているが、当時はまだそういう研究も進んでいなかったのだろう。言っちゃなんだが名作と言われる『五重塔』より『あやしやな』の方がよっぽど面白かった。読んだの随分昔なんで中身は忘れてるが。
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10月05日(土)
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