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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■天動説健在/『ブレーメンU』3巻(川原泉)/『殉教カテリナ車輪』(飛鳥部勝則)ほか
 『ゲートボール殺人事件』は冗談ではなくちゃんとした本格ミステリもの。
 『中国の壷』はファンタジー、『殿様は空のお城に住んでいる』は時代もの、『バビロンまでは何マイル?』はタイムスリップSF。
 『笑う大天使』は初めコミュニケーション不全みたいな少女たちの猫かぶり人生を描きながら、SF、ファンタジーの要素を徐々に加味していき、最後は何とも言えない夢のような男女のありようを示して完結した。川原さんの才能の凄まじさを私が感じたのは本作である。
 これで作品数が多かったらまさに「少女マンガの手塚治虫」と評してもいいくらいだ。

 そして川原さんが本格的宇宙SFに挑戦しているのがこの『ブレーメンU』。
 いよいよ悪魔の科学者エルンスト・ヘルツォークとの対決が迫りつつある第3巻、新たな人物、虎のブレーメン(バイオテクノロジーで知性を獲得した動物たち)連邦捜査官シャキールが登場する。
 このキャラが最高にいいんだ!
 ブレーメンUに同乗することになる彼は、無骨なまでに職務に忠実、飛びぬけて優れた知性で感情を抑制し、愚かな人間たちのブレーメンに対する偏見、差別、迫害にも決して怒ることなく静かに対処し、そして現在の立場を堅持して来た。
 彼が唯一友と認めた相棒、こちらは人間のアレン・ハークネスは、ヘルツォークを追ってその組織に潜入したまま行方不明になっていた。アレンを追って、シャキールは自らもヘルツォークの潜む惑星プレリアに降り立つ。
 ……いや、これまで登場して来たブレーメンは、みんな簡略化された動物キャラだったんだけどね、このシャキール、実に細密にリアルに、モノホンそっくりに描かれてるのよ。必然的に表情は殆ど動かないんだけれど、なのに感情がちゃんと伝わってくるんだよ!
 ほんのちょっとした目の動き、顔の角度、構図、これで彼のストイックな態度の中に隠されている悲しみを表現している! これはすごい!
 捜査官としての優秀な成績が災いして、かえって相棒の見つからないシャキールの前に、アランが「新しいパートナーだ、よろしく!」と微笑みかけた瞬間のシャキールの驚きと喜びの入り混じった顔はどうだ! 白目をいつもよりほんの少し大きくしただけで、川原さんはそれを表現したのだ!
 ああ、その絵をそのままここに紹介したいなあ……。  


 飛鳥部勝則『殉教カテリナ車輪』(創元推理文庫・777円)。
 第9回鮎川哲也賞受賞作というオビのにちょっとだけ期待して購入。
 「ちょっとだけ」というのは、受賞作=傑作とは限らない例をいくらでも知ってるからでね。
 それでも江戸川乱歩賞と鮎川哲也賞は、応募者にある「拘り」があるように感じられるので、つい手を伸ばしてしまうことが多い。これがメフィスト賞や横溝正史賞になると、これまで随分と辛酸を舐めさせられて来たので(んな大袈裟な)今一つ食指が動かないんだけどね(^^)。
 つまり私の好みは「本格ミステリをベースにしたエンタテインメント」ということなんである。まあ、ごく普通のミステリファンですな。

 表紙をめくって驚いたのは、そこにカラー綴じこみで油彩画の口絵が付いていたからである。これがただの飾りではなく、事件に関係してくることは容易に想像される。事件現場の見取り図とか、登場人物の家系図が付いている例はあるけれども、こういうのは滅多にお目にかからない。これだけでもこの作者が意欲的というか、読者に果敢に挑戦するタイプの作家だということがわかる。期待は必然的に弥増すというものだ。

 美術館の事務員、井村は学芸員の矢部に、ある殺人事件の記録を見せられる。
 矢部はかつて、ふとしたことから東城寺桂という無名の画家に興味を持ったことがあるのだが、その画家はわずか5年の間に五百点もの絵を描き上げた後、自殺していたのだ。
 そして東城寺が絵を描き始めるきっかけになったのが、「同一の凶器」で、「同時に」二つの密室殺人が行われたという奇妙な事件だった。
 矢部はその謎を解くべく、散逸した東城寺の絵画の行方を追う……。

 謎の設定は実に魅力的である。

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06月02日(日)
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